王とサーカス

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レビュー : 515
著者 :
MOTOさん  未設定  読み終わった 

誰でも
(自分とは何者なのか?)
フト、わからなくなる時がある。

ここ、カトマンズに滞在している
日本からやってきた女。
彼女もまた、魂が抜けた線の様なシルエットしか見えず、
(私は前作を読んでいないので特に。)
最初、見知らぬ女の案内で
初めて訪れる異国を巡ってでもいるかの様な旅気分でぼんやりと、ページを捲っていた。

そんな女の二の腕を
いきなり掴む冷たい手。

「おい、
 この国の王が今、死んだぞ!
 殺したのは息子で
 家族も巻き添え、
 しかも自身は自殺を図ったそうだ。」
 
そのNEWSを聞いた途端、
彼女の体に熱い血がどっと流れた。
(そうだ、私はジャーナリスト!)
我に返った彼女は
さながら目を描き入れた仏像に魂が宿るがごとく
自分が何者であったか?に気付いた。

なぜ、息子は王を殺した?
さらに、家族をも殺す必要がどこにあった?
そして
自分の命を立つ事情とは…

国は必死で事実を隠蔽しようとする。
彼女は自らの身に危険が迫りつつも
(それでも事実を暴き、
 国民に伝えるのが私の役目。)
と、使命に燃え、ペンを握るのだが

「一体、それは何の為だ?
 民衆とは自分の身に降りかからぬ陰惨な事件は好物だ。  
それは、さながらサーカスでも見るようにな。
お前らジャーナリストは
民衆の好奇心を満たし、その見返りでただ飯を食っているだけじゃないのか?」
と、問う者。

更に
ジャーナリストの存在意義に対する否定的な正論に揺らぐ彼女。

何の罪もない市民を無残に殺す兵士を撮った写真を世界に配信し、賞賛を受けるカメラマン。
それで戦争の悲惨さを伝えたつもりか…
写真一枚撮ってるヒマがあれば、人の命を救えたのではないか…

読者はジャーナリストなんかじゃない。
が、それは
死刑制度の賛否を問われて
正しい答えを導き出せぬ事と同様、
全ての人達に隣接している真っすぐな問いかけ。

ミステリー要素も加わり、
深い霧の中を彷徨うような物語の中にあって、
それでも
彼女が一歩一歩すすむべき方向を選択し、
歩む道の後からは、柔らかい光が追いかけている様に思えた。

正解も間違いもないこの世界で
<正しい>を導き出すのは
やはり人が持つ信念なんだなぁ。

貴重なゲラ刷りの献本、ありがとうございました!

レビュー投稿日
2015年8月10日
読了日
2015年8月10日
本棚登録日
2015年8月10日
4
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