ドクロ

  • スイッチ・パブリッシング (2024年4月15日発売)
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感想 : 36
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柴田元幸さんの訳者あとがきを、少し引きたい。
 “それにしても、何と大胆な語り方か。きわめて多くを読者の想像力に委ねている。
謎を元に物語をさらに拡げていくよう、読者はほとんど挑まれている。そういう、読者を信頼する姿勢がすばらしい。”

それって、知りあうこともない作者との間で、一冊の本を通じて築ける最良の関係だと思う。

どうしてドクロは、頭だけになったの?って訊かれたら、こんな答えはどうだろう。

『ドクロとガイコツ』
男は自分の体が嫌でした。
いかめしく響く声も、分厚い胸板も、逞しく力強い両腕も。
その手は農奴を鞭打ち、隣国の兵を撃ち倒しました。
男はそんなことはしたくなかったのです。

でもそれは領主としての務めでした。
男の父親や領民は、喝采して褒めそやしました。
なんて男らしく、誇り高い領主様なんだろう!

男は亡くなるまで立派な領主として振る舞い続けました。
だから、墓地に埋葬されたときにはホッとしたものです。
これで肉体ともおさらばして、ほっそりと身軽な骨だけで過ごせますからね。
誰も骨に責任なんて求めはしません。

でもうまくはいかないものです。
夜な夜な散歩をするたびに、記憶が苛むのです。
体は覚えているのです。
男は怖くなりました。
わたしは、失った強さを、若い肉体を取り戻したいのだろうか?
どっちが、本当の、わたしだったのだろう。

新月の夜にドクロはそっと転がってゆきます。
ガイコツと別れるのは、身を切られる辛さでした。生死が分つことなくずっと一緒にやってきたのですから。
もうこれで、どこまでも走ってゆくことも、梨の木に手を伸ばすこともないのです。

でもドクロは振り返りません。
夜風が吹き抜けて、ドクロを鳴らします。
そっと口笛を吹くかのように。





読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年9月5日
読了日 : 2024年9月5日
本棚登録日 : 2024年7月30日

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