人生がときめく片づけの魔法

著者 :
  • サンマーク出版 (2010年12月27日発売)
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2019年初頭、こんまりさんは動画配信の人気で世界的に知られつつある。2011年頃に日本で話題になり、2015年にはこの本の英訳がアメリカで話題だったらしい。今さら読むのはだいぶ周回遅れだ。ときめきがどうこう言ってる片づけ本が流行っている、という話は、しばらく前に耳にしていた。私は片づけが得意ではないし、今も雑然とした部屋でこの文章を打っている。ひねくれた私なので、トキメキで片づけ?何それ?という、あわよくばイチャモンを付けたいという、ちょっと意地悪な気持ちで読み始めた。

「はじめに」で片づけで人生が変わる!みたいなことが書いてあって、予想していたとはいえ、のっけから自己啓発でおののいた。人はそんな簡単に変わらないと思うので、安易な賛同はできない。ただ、その後には片づけに臨むマインドと具体的な進め方、収納の仕方についての記述が続く。同じ内容の繰り返しになっている箇所がいくつかあるけど、おもしろかったし、納得できる部分もあった。短い期間で一気に片づける、とあったので、それは大変だ!と思ったら短期とは半年とのこと。それは確かに一度きりでいいのかもしれない。

モノを捨てるとなると、必要かどうか?という判断基準になりがち。そこに「ときめくかどうか?」という基準を持ってきたのはおもしろいと思う。更に、捨てることへの罪悪感を「モノへの感謝」という形で緩和しているのもおもしろい。例え全く着なかった服を捨てるのであっても「自分の好みに気付かせてくれてありがとう」と感謝する。確かにそうやって意味を持たせれば捨てやすいかもしれない。そんなことも含めて、片づけはマインドが9割というのは納得できる。ただ、そのマインドの中にスピリチュアルも若干入っている気がする。スピリチュアルの粉がかかっているかな?くらいの感じ。可愛げのあるスピリチュアル。こんまりさんは5年ほど巫女をしていたそうなので、神道や万物に神が宿るというアニミズムっぽさがあるのだろう。

服を片づけるために、まず「収納から全部出して一か所に集める」と書いている箇所で思ったことがある。これは「お焚き上げ」ではないか?神社でダルマ、お守り、遺品等を山のように積み上げて燃やすアレだ。「ときめき」は炎だ。sparke joy!発火する喜び!「片づけは祭りです」と書いていて笑ってしまったが、そう考えると、これは確かに「祭り」かもしれない。

「ときめき」もそうだけど、こんまりさんは言語センスがおもしろい。聞くところによると、ブラジャーのことを「おブラさま」と呼んでいるそうな。おもしろい。この言語センスはみうらじゅん氏に近いと思う。みうらじゅんといえば、観光地のろくでもない絵葉書を「カスハガ」と呼んで収集するなど、訳のわからない大量のコレクションがある人だ。また、仏像を愛好するなど仏教に造詣が深く、子供の頃の夢は住職になることだったそうだ。ここはひとつ、こんまりさんにみうらじゅん氏の家か倉庫に行って対決してほしい。かつて巫女をしていたこんまりさんと、住職になりたかったみうらじゅん氏の対決。神道 vs 仏教。ただ、こんまりさんの言う「ときめき」と、みうらじゅん氏の言う「ぐっとくる」「そこがいいんじゃない!」は、ほぼ同義だ(©武田砂鉄 on twitter)。意外に意気投合して神仏習合しそうな気もする。

この本の背景にある考え方は「今を生きる」ということだと思う。過去のモノを捨てられないのは過去への執着だし、買いだめしてしまうのは未来への不安。人はついつい、今ではなく過去や未来に囚われてしまう。それを考え直すという意味で、片づけはいいことなんだろう。とはいえ、今だけを生きる!みたいにイキられると刹那的なことになっていろいろ問題がある。今を最高にするために過去を偽造したり、後の世代の負担を考えなくなったり、まあ、いろいろと。

ときめかないものは視界に入れない。捨てる。それは切り捨てではないか?とモヤモヤする部分もある。ときめかないモノがある、なくてもいいモノがある、役に立たないモノがある、というのは豊かさではないのか?多様性ではないのか?考え過ぎかもしれないが、人間関係にも適用されると疎外とか排除になりかねない。

経済的な観点から考えるのもおもしろい。一見すると、とにかくモノを買わせようとする消費社会へのアンチテーゼのように見える。果たしてそうなのか?ときめくモノだけを残した結果、その人は無駄にモノを買わなくなるだろうか?スペースが空いたからモノを再び買いだすような気もする。ときめくモノばかりに囲まれていると、飽きるのも早いかもしれない。片づけた結果、かえって消費を促進するようになったりして。そしてまた片づけというループに入ったりして(笑)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年2月14日
読了日 : 2019年2月11日
本棚登録日 : 2019年2月10日

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