エロマンガ表現史

著者 :
  • 太田出版 (2017年11月2日発売)
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本棚登録 : 350
感想 : 18

エロマンガの作者の創意工夫によるエロ表現はどのように広がり、エロマンガ表現の『記号』として定着したのか?作品の絵を参照しながら解説した本。エロマンガに詳しい訳じゃない(本当に!)けど分かりやすかった。

そんな解説書ではあるけど、この本の魅力の一つとして著者の言い回しのおもしろさがある。私は門外漢ゆえに、出てくる用語が業界用語なのか、著者の造語なのかが判別できない。例えば、『ロリコン原理主義派』『乳の性格=「乳格」表現が進んだ』とかおもしろいんだけど、著者の創作言語な気がしてならない。『金髪の外人が黒船として巨乳開国を迫ってきた』とか『巨乳待望論』、『世は巨乳戦国時代へと突入』やらちょっと何言ってんだ(笑)と思う。『マンガの中におっぱいが描かれたときから、おっぱいは常に揺れてきた歴史がある』とか、そんな歴史を聞いたのも初めてだ。ただ著者は膨大な資料にあたっているし、若干ふざけつつも研究者としての真摯さが感じられる。

この本を読みながら、官能小説の中で使われる言語表現を辞典にした「官能小説用語表現辞典」を思い出した。ただ、この本は表現辞典ではなく表現史なので、絵の表現の移り変わりを比較分類し、説明する必要がある。たとえば「乳首残像」の絵は、どこからどこまでが「乳首残像」と言えるのか?「乳首残像」と分類した表現はどのように進化したか?を分類しながら説明するのは難しい。著者の主観になりかねないが、その表現の細部の差異を一生懸命見ていこうとする情熱は大変なものだ。エロは細部に宿るのかもしれない。

エロ描写はマクロの引いた視点で描いてしまうと3行くらいで終わってしまう。エロとして成立させるためには、その一瞬を切り取って、微に入り細に入りミクロな視点で描く必要がある。しかし「断面図」の章の最後で軽く触れられているが、精子と卵子まで描こうとするとそれは「生命の神秘」みたいなスピリチュアルな話になる。つまり性から聖への転換が起こるのかもしれない。

エロマンガと官能小説で共通しているのは、直接的な猥褻表現が規制されたことで多様な表現が生まれたのではないか、という論点。この点について、つい納得しそうになる。しかし本当にそうだろうか。例えば、おっぱいの表現は大きな規制がないにも関わらず多様な表現が生まれた。特に規制がなくても別の多様な表現が出て来るのではないだろうか。

作者インタビューの中で「何がエロいのかわからなくなった」と語っている人がいて、精神を病んだギャグマンガ家が「何がおもしろいのかわからなくなった」と言っていたのを思い出した。何事も追及すると哲学的になるようだ。ギャグマンガ家は精神を病んでもエロマンガ家は病まない気がするが、どうだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年5月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2018年4月30日

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