野間文芸新人賞受賞作。ゲイで、ドゥルーズをテーマに修士論文を書く大学院生が主人公ということで、私小説的な内容と思われるが、論文やエッセイとは異なる形で著者の思想や思考、体感が表現されてるように感じられて興味深かった。
主人公は、社会の規範(異性愛主義)とは異なる形で存在する自己の性的指向(あるいは性自認)について、矛盾を抱え、葛藤している。ドゥルーズの思想はヒントでありながらも、それと自己の中の蠢きが必ずしもマッチしない。生成変化に憧れながらも、その方向に必ずしも振り切れ(られ)ない。
最終的に主人公は修士論文のデッドライン(締切)を突破してしまう。そこで訪れたある種の諦めと制約は、際限のなさゆえの選択のできなさを縮減し、その制約の中でこそ「動きすぎない」形での生成変化に可能性を開くことにつながっているようにも思われる。
千葉の代表作でもある『動きすぎてはいけない』では事象や概念の「偶然性、外在性」がヒュームの思想を軸に強調されるが、僕はそれを読んだ際に、一文字も明記されていないにも関わらず「ハッテン場」的なものの隠喩を読み取った。この小説ではそうした場面が幾度も登場するが、これは偶然ではないだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2024年11月3日
- 読了日 : 2022年11月6日
- 本棚登録日 : 2024年11月3日
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