おそいひと [DVD]

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本棚登録 : 108
レビュー : 18
監督 : 柴田剛 
出演 : 住田雅清  とりいまり  堀田直蔵  白井純子  福永年久 
sstrip028さん 映画   観終わった 

重度障害者の主人公が連続殺人に手を染める様を描いたモノクロ映画。物語自体はフィクションだが、主人公・住田雅清を演じるのは実際に電動車椅子で外出し、ボイスマシンを使って会話する重度障害者である住田雅清本人。
この作品の撮影が終わったのは2000年で、2004年には編集等も終わっていたが、その内容の過激さゆえ賛否が渦巻き、国内での公開は難航。海外の映画祭などで高い評価を受けた後、2007年にようやく国内の劇場で公開された。

すげえ偉そうな感想を書くと、「これはアリだな」と思った。

この作品についてもっともらしい説明をするなら、「性欲もあり、殺人もするのが人間なんじゃないか」とか言うのが手っ取り早い。つまり、障害者だからといって純真無垢な存在ではなく、他の健常者同様に感情があり、物騒ですらある発想を心に抱いていても何らおかしくないと。

住田がなぜ殺意を抱き、殺人に至るかは明示的には明らかにされない。考えられうる原因はなくはないが、ヘルパーなどとの間で交わされる普段のコミュニケーションでは、彼の意見や心の動きなどは決してわかりやすく見えるものではない。そのため、原因の推定は可能性の域を出ない。

もちろん、そうした形で障害者を描くことで「障害者への偏見を煽る」という意見もあるかもしれないが(確かに住田の笑顔はかなり気味が悪い)、しかし障害者を神聖化するような描き方も同様に差別である。「障害者」を多面的な人間として捉えるならば、その負の部分をも表象することには意義がある。

ちなみに、この映画が日本での公開が危ぶまれた、というのは簡単な理由で、24時間テレビやパラリンピックのような、「清く正しく努力し、生涯を乗り越える障害者」のような陳腐な(しかしこの社会で広く受け入れられている)図式から、露骨にはみ出すからである。

しかし、繰り返すように、そのように障害者を美化・神聖化した姿しか描けないとしたら、それはやはり差別なのである。

「障害者が、何を考えているのかわからない、気味が悪い存在として描かれているから問題」も何も、「人間ていうのはそういう気味悪い存在でもあるんですよ」、ということなんじゃないかということです。

ちなみに、BGMでは電子音楽系のノイズミュージック(World's End Girlfriend)が「がぐぅおーんギュルギュルギュル」みたいな感じで挟まれてて、それも良かった。社会派映画っていうよりアート系なんだと思う。
けっこう美しい映画です。

ところで、この映画を観て「タクシードライバー」を連想した人はわりと多いと思うし、「タクシードライバー」がアリなんだったら、これだってアリだろう。傑作。

レビュー投稿日
2013年9月5日
読了日
2013年9月5日
本棚登録日
2013年9月5日
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