見守り屋として夜間に人や動物を見守る仕事をしている女性が主人公の小説です。
夜間に見守りをするため、仕事終わりのランチがその日最後の食事になることから、毎回美味しい料理とお酒を楽しんでいます。
恐らく実際のお店がモデルになっているのか、お店の雰囲気や料理の見た目・味、そのお店がある街の様子などが細かく描写されており、お店に足を運びたくなりました。地元が舞台になっていた章もあり、行ったことのないお店ではありましたが、あの辺りにあるのだろうな、という想像が出来る程リアルな描写に思わず唸ってしまいます(笑)
また、ただのグルメ小説ではなく、主人公の抱える悩みや葛藤、その日見守った人とのやり取りなどに考えを巡らせつつ食事をする描写が特徴的です。
実際にはあまりないような「見守り屋」という職業柄、人に興味が無く淡々と仕事をこなし、人と関わった疲れを1人の食事で癒すような主人公像をイメージしていたのですが、全くの真逆で、家族関係や仕事に悩んだり、見守った人たちへの思い入れがあったりなど、非常に情に厚く人間らしい、素敵な女性でした。
そして、主人公だけではなく、その周りの人達や、見守り屋の仕事を通して関わった人達、皆様々な事情があって気持ちがあって、一貫してリアルな人間らしさを描いていると感じました。
大人になって仕事に忙殺されるようになってから、他人の事情とか気持ちとか、そういったことに考えが回らなくなって、コロナ禍で更にそれに拍車が掛かって、どんどん人間らしさが失われて居たこのタイミングでこの小説に出会えてよかった。
今の現実よりずっとリアルで精密に描かれる外食の魅力や多様な人間模様に触れ、そこから思い起こされる自分の感情に触れ、私はまだちゃんと人間だったのだ、と思わせてくれるような小説だったと思います。
- 感想投稿日 : 2021年5月9日
- 読了日 : 2021年5月9日
- 本棚登録日 : 2021年5月9日
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