デビュー作『消失グラデーション』でドギモを抜いてくれた
可愛い過ぎる名探偵・樋口真由が再び登場の第二弾。
今回は前作の一年前のストーリーとなります。
個人的には前作ほどのヤラレタ感はないし、
中盤までのあまりに説明的な描写の数々に正直途中
心折れそうになったけど(笑)、
(リアルさにこだわったが故なんやろうけど、詳細な映像に関する描写がちとしつこい感じは受けました)
…が一転、
残り100ページからの怒涛の展開と切ない余韻には
いやはや充分過ぎるくらい酔わせてもらいました(笑)
新進気鋭の女性映像作家・真壁梓が夏休みを利用して行うビデオクリップ制作のスタッフとして、
撮影合宿に参加することになった
私立都筑台高校2年生で映画研究部部長の遊佐渉(ゆさ・わたる)と
美貌の1年生樋口真由。
そんな中、廃校となった中学校の校舎を改装して作られた山の中のスタジオでの撮影合宿中に
クロスボウ(ボウガン)による殺人事件が発生する…。
なんと言ってもこの小説が斬新で面白いのは
現役女子高生による音楽ユニットのプロモーションビデオの撮影とそれを制作する過程を
リアルなドキュメントとして
映像に収める二重構造になっている点。
(なんと制作側のプライベートな時間もカメラが回り、合宿所のあらゆる場所にカメラが仕掛けられてます)
そしてその中で起こるアクシデントも実はすべて監督の意図したもので
それは限られたキャストにしか知らされていないんですよね。
次に何が仕掛けられてるか分からない中での撮影で
キャストもスタッフも疑心暗鬼になっていく構成が緊張感抜群で
手に汗握る非常にスリリングな効果を生んでいます。
(ただ、この複雑な構成こそが読者を混乱させる原因にもなっているんよなぁ~汗)
密室の教室から放たれた矢による「フェイクの殺人事件」。
(コレはキャストに扮した生徒が演技をしている)
現実と虚構の曖昧な境界線。
監督である真壁梓は
この合宿撮影にどんなパースペクティヴ(全体像)を思い描いているのか?
事件の謎を解かなければ
撮影は直ちに中止になってしまう緊迫した状況の中繰り広げられる
探偵・樋口真由の推理。
撮影用のカメラに映った映像を手掛かりに
ひとつひとつ地道に検証する手法もスゴく新鮮で惹きつけられます。
(ブライアン・デ・パルマ監督のサスペンス映画の傑作「ミッドナイトクロス」を思い出したなぁ~)
そして起こるフェイクではない
本物の殺人事件と
いつの間にかブレーキワイヤーを抜き取られた自転車の謎。
冒頭で書いたように
密室と梓の過去との関係に気づき、
渉のオヤジである私立探偵が登場してから
物語は俄然面白くなってゆきます。
しかしこの作者は第31回横溝正史ミステリ大賞を受賞したデビュー作「消失グラデーション」同様に、
フェアプレイにのっとった
伏線の張り方とその回収の鮮やかさ、
そしてほろ苦い青春群像を書くのが抜群に上手い。
(例えミステリー要素を排除したとしてもそれだけで充分に面白い物語なのです)
今作ではクールでツンデレな樋口真由の新たな魅力も発見できるし、
今作から新たな語り手となった
松田優作に憧れる私立探偵を父に持つ、
都筑台高校二年で映画研究部部長の遊佐渉(ゆさ・わたる)や
遊佐の幼なじみで葦原女学院高校映研・映像班チーフのお嬢様、
御津矢秋帆(みつや・あきほ)など
それぞれ痛みを抱えた少年少女たちの
キャラの書き分けも相変わらず上手いです。
作者自身、映像制作の仕事をしている経験から
撮影手法や機材の詳細な書き込みはハンパないし、
映画や音楽へのウンチクも豊富で、
CGがまだない時代のSF映画の傑作「ブレードランナー」で
未来のロサンゼルスをイメージした煙る高層ビル群の撮影秘話にはニヤリとさせられました(笑)
(しかもこれと同じ手法のトリックが物語のカギを握る重要な場面で使われています)
デビューから二作目ということで
粗やツッコミどころは多々あるけど、
まだまだ底知れぬポテンシャルを秘めた作家だと思うので
引き続き追っかけていきたいなぁ~。
映像関連に興味のある人、
切ない青春ミステリーが読みたい人、
一風変わった構成のミステリーに飢えてる人に
オススメします。
(この作品から読んでも分からないことはないけど、デビュー作の「消失グラデーション」を読んでいた方がより深くその世界観を楽しめます)
- 感想投稿日 : 2014年11月20日
- 読了日 : 2014年11月20日
- 本棚登録日 : 2014年11月20日
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