噂どうりの本当に面白い小説だった!
普段は静かな場所でしか本の内容が頭に入らない自分が
電車の中、あっという間に物語世界に引き込まれ、乗客の姿も、おしゃべりなおばさんたちの話し声も、窓の外の景色も、全部消え去った。
美術や絵画というある意味敷居が高く特殊でコアな世界を、
特別な知識を持たずとも誰にでも楽しめるミステリー、
いや、エンタメとして物語を構築してみせたマハさんの手腕にはもう脱帽です(笑)
ある日、ニューヨーク近代美術館(MOMA)の学芸員ティム・ブラウンに届いた一通の手紙。
それは名前は知られつつも誰もその姿を見たことがない
伝説の絵画コレクター、コンラート・バイラーからの招待状だった。
熱帯雨林咲き乱れ様々な動物たちが身を潜める密林の中、
赤いビロードの長椅子に横たわる
長い栗色の髪をした裸身の女。
それこそがフランスの画家アンリ・ルソーが残した1910年の作品で、二十世紀美術における奇跡のオアシスであり、物議を醸し出す台風の目となった傑作「夢」。
そしてそれと同時期に描かれたと見られる夢と同じ構図の「夢を見た」という作品。
バイラーはその真贋鑑定を若き日本人ルソー研究者の早川織絵とティムで、まるでゲームのように争うことを依頼する。
作品をつぶさに調べるのではなく、バイラーから提供の古書に記された七章からなる物語を一日一章読み進めることによって、作品が本物か偽物かを七日目に判断するという、まさに未知の調査方法だった。果たして「夢を見た」という作品は本物なのか? 早川織絵とティム・ブラウンの真贋対決の勝敗の行方は…。
史実と創作を絶妙に交えながら描かれる貧しき画家アンリ・ルソーの生涯。
架空のストーリーなのにマハさんが語ると水のような自然さで読む者の心に浸透し、
それは限りなく真実に近づいていく。
まるでルソーを主人公にした冒険小説みたく、心躍るエピソードの連続にページを繰る指が止まらなくなる。
そこにプラス、何かを企んでいそうなバイラー氏の代理人のエリク・コンツや、早川織絵のボスでテート・ギャラリーのチーフ・キュレーターであるアンドリュー・キーツ、
世界最大のオークションハウスのディレクターであるポール・マニング、インターポール(国際刑事警察機構)のアートコーディネーターで謎の女性ジュリエット・ルルーなど、様々な人たちの思惑が複雑に絡み合うことで実にスリリングな効果をもたらし、ミステリー小説としても一級品の輝きを放つのです。
また愛すべきおバカな(笑)ティム・ブラウンや容姿端麗で頭のきれる早川織絵など印象的な登場人物の中でも、
ルソーに愛され絵のモデルとなり、絵の中で永遠を生きることを決意する女性ヤドヴィガや
ルソーの才能にいち早く気付き彼を後押しする天才画家パブロ・ピカソの人物像が実に人間臭く生き生きと描かれているのも、なんとも魅力的で引き込まれます。
いい小説は読む人の心の中に物語が生まれる。
結論を押し付けずに、読む人が思いを巡らすための余白を届けてくれる。
本当に読みやすく、ページをめくる指が止まらなくなる面白い本なので、
「美術や絵の話苦手だしな~」っと思って避けてる人も、
先入観ナシに一度トライしてみて欲しいです。
- 感想投稿日 : 2015年4月6日
- 読了日 : 2015年4月6日
- 本棚登録日 : 2015年4月6日
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