針がとぶ - Goodbye Porkpie Hat (中公文庫)

4.01
  • (53)
  • (61)
  • (34)
  • (9)
  • (0)
本棚登録 : 649
レビュー : 66
著者 :
円軌道の外さん 小説   読み終わった 

ああ~、やっぱ
コレ、コレ!(笑)

日常とは違う世界へ誘うのが小説の役割だとしたなら、
この作品は
これほど優秀な小説はないってくらい
ものの数行で別世界へダイブさせてくれる。


詩人だった伯母さんと姪にあたる少女との
突然の別れを描いた表題作
『針がとぶ』、

毎週金曜日に本を買うことだけが唯一の生き甲斐の男が
ついに出会った運命の本とは…
『金曜日の本』、

ちょっと変わった少年バリカンと黒猫のコクテンと少女が過ごした
遊園地の駐車場バイトの日々を牧歌的に描いた
『月と6月と観覧車』、

絵描きである旅人と島の雑貨屋主人との奇妙な友情に笑い、
美しい風景描写に心奪われる良作
『パスパルトゥ』、

など時を超え国境を越えて
絶妙にリンクし、シンクロし合う7つの物語。


読書だけが与えてくれる
至福のただなかに取り込まれる幸福感。

それにしても
よくもまぁ、これほど心地いい
大人の童話が書けるもんやね(笑)
吉田さん、ホンマ毎回感心するわ~


物語る腕力がすんごい。

ぐいぐい引き込まれる。


グッドバイが口癖の詩人。
言葉の響きを被るためのポークパイ・ハット。
同じところで針がとぶ、
ビートルズのホワイト・アルバム。
マスト・ビーが口癖の本屋のおじさん。
路地に集う猫の声。
読書と古い映画が好きなホテルのクローク係。
餡パンひとつぶんだけ毎日成長する猫。
八十日間世界一周の道化。
ありとあらゆるモノを取り揃えた万物雑貨屋。
タンクという名の
生まれつき足が不自由な猫。
湯船に浮かんだ上弦の月。
べらんめえ風「仁丹カレー」。
残念賞のウイスキー・ボンボン。
常夜灯を好きになってしまった天使。


数ある吉田作品の中でも
この一冊は特に
印象深い人物が多く登場する。

読み進めるうちに分かる
短編と短編の共通点。

一話に登場した詩人の伯母さんが
三話目でティーンエイジャーとなって登場したり、
大好きだった伯母さんと死に別れた姪の少女が
最終話には放浪するカメラマンとして
嬉しい成長を見せてくれたり。

第二話のクローク係がハマる運命の本を書いた作者が
第五話でその本を書いたきっかけをチラッと語ったり。

緻密に繋がり時間軸がバラバラになった物語は
読むたびに発見があって何度となく読み返したくなるし、
ヨーロッパの短編映画や
ロードムービーを観たかのような
旅の余韻と
じんわりあたたかな感慨に浸れます。


個人的には
忘れてはならないことを左手に書く
詩人の伯母さんの癖は
バリカンの影響だったことが嬉しかったなぁ。
(日記を書き続けてることも)

そして第二話の『金曜日の本』は
買ったばかりの本を手にして
街を歩く幸せを
誰より理解できるであろうブクログユーザーなら
間違いなくニヤニヤが止まらなくなる逸品です(笑)
(特にこの話に出てくるホテルのクローク係は読書と映画が好きなオタクという点で大好きな映画「トゥルーロマンス」のクラレンスを思い出してしまった笑)

そして駐車場を月面、監視小屋を宇宙船、黒猫をコクテン(黒点)と命名する少年バリカンのネーミングセンスの良さに唸ります!(笑)

大好きな黒猫コクテンの話になると何故だか素っ気なく恥ずかしそうな顔をする彼のイノセンスがまた沁みるのですよ…( >_<)

真打ちは百科事典のセールスマンや獣医師、自転車修理屋、コックなど様々な職業を渡り歩いてきた
楽しい楽しい雑貨屋の主人。

彼の含蓄あるセリフと数奇な人生に
是非とも助演男優賞を!(笑)



かくも言葉の力は強い。

吉田さんの文体や研ぎ澄まされた言葉選びのセンスは
一目惚れのように否応なしに僕を惹きつけて離さない。

聴くことのできない音楽や
言えなかった言葉、
滅びゆく風景など
いつか消えてなくなってしまうものに思いを馳せる彼、彼女たちが愛おしくて切ない
不思議な大人の童話集です。


彼女自身大ファンだと公言する
小川洋子さんによる解説も秀逸。

レビュー投稿日
2014年9月5日
読了日
2014年9月5日
本棚登録日
2014年9月5日
22
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『針がとぶ - Goodbye Porkp...』のレビューをもっとみる

『針がとぶ - Goodbye Porkpie Hat (中公文庫)』のレビューへのコメント

nejidonさん (2014年9月6日)

円軌道の外さん、はじめまして♪
たくさんのお気に入りとフォロー、ありがとうございます。
丁寧で心地よいレビュー、楽しく読ませていただきました。
吉田篤弘さんの作品に小川洋子さんが解説を寄せる・・贅沢の極みです(笑)
なんと、登録された本の全てにレビューを載せていらっしゃるんですね!
私もそれを目指しているのですが、なかなか出来ません。
これから、ゆっくり本棚を観させていただきますね。
こちらからもリフォローさせていただきます。
ちなみに、ワタクシも左利きの0型です。
(バンドでのパートはドラムですか?)
  ↑単なる勘です。ハズレだったらすみません。

円軌道の外さん (2014年9月28日)


nejidonさんさん、遅くなりましたが、
たくさんのお気に入りアンド
フォローありがとうございます!

しかも本好き、左利きで
血液型まで一緒とは
偶然とは言え、なんか嬉しくなっちゃいました(笑)

あっ、バンドでは
ドラムではなくベースを担当しているのです(笑)
(同じリズム楽器ですね笑)

16歳から20年以上同じメンバーでやっているので
もう完全に家族や身内のような感覚で
ワイワイやってます(笑)

小川洋子さんは
前々から吉田作品のファンであることを公言してるので、
好きが溢れ出し
敬愛する感じが文章にも滲み出ていて
読んでるこちらもニヤケてしまいましたよ(笑)

あはは(笑)
レビューはブクログに登録する前から
趣味でずっと書いていたので
苦痛やないし、
好きな作品しか登録してないので(笑)
そんなに難しいことではないんですよね(^^;)

いえいえ、こちらこそ
末永くよろしくお願いします!

また本棚参考にさせてもらいますね(笑)


コメントをする場合は、ログインしてください。
ツイートする