青が破れる

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本棚登録 : 168
レビュー : 27
著者 :
円軌道の外さん 小説   読み終わった 

『1R 1分34秒』で
第160回芥川賞を受賞した町屋良平の
第53回文藝賞受賞のデビュー作。



いやぁ、久方振りに小説(物語)ではなく
文学や詩を読んだ気分。

ひらがなを多用したきわめて感覚的な文体。
読んでいる間は終始、気持ち悪さや居心地悪さが残るのに
なぜだか読むことを止められない。
そして、フックのある言葉が、
寡黙だが浮かび上がる熱情が、
どうしようもなくリアルに胸を射抜いてくる。

クリープハイプの尾崎世界観や
元パンクロッカーの町田康などミュージシャンたちがこぞって
この作家に惹かれるのも納得。
そこに流れるのは70年代の、
ロックやアメリカのロードムービーの映画に多く見られた寂寥感とざらついた質感だ。
僕の中では読んでいる間中、ずっと音楽(ブルース)が流れていた。
サンタラの『バニラ』『独白』『うそつきレノン』、
酔いどれ詩人トム・ウェイツの物悲しいピアノの音色としわがれ声、

https://youtu.be/Ujn4YTrdBNI

ライ・クーダーの哀愁のスライドギター、
ニール・ヤングの魂のギターの音色、

https://youtu.be/Rm1JRPi8XKg

そして、ボクシングといえば外せないこの曲、久石譲の『キッズ・リターン』のテーマが行間から流れては消えていった。

https://youtu.be/0WVhDXjzN1U


物語はシンプルだ。
プロボクサーを目指すものの
いつもどこかが冷めてる主人公の青年秋吉(シューキチ)、
秋吉の友達のハルオ、
ハルオの彼女で、不治の病で入院中のとう子、
秋吉の恋人だが、夫子がいる夏澄(かすみ)、
秋吉のジムメイトで非凡なボクシングセンスを持つ梅生(うめお)の
5人の若者が織り成す、
夏から冬にかけての
なんてことのない日常を描かれていく。

作者の町屋良平は劇的な出来事なんてなくても
当たり前に揺れ動く小さな感情を、
繊細に積み重ねていくから、
登場人物たちの生が鮮烈に浮かび上がってくる。

秋吉との濃密なキスのあと、
夏澄がコーラでうがいするシーンのリアリティに胸を衝かれ、
秋吉、ハルオ、とう子、梅生の4人であてもなくドライブした真夜中のピクニックに懐かしさを覚え、
(まるでジム・ジャームッシュの映画のようだ)、

秋吉と梅生のスパーリングシーンは
拳で語り合い通じ合う二人がうらやましかったし、
(梅生の言動や行動にホモセクシャルの匂いを感じたけど、果たして?)

夏澄の死を受けとめきれずに
息子の陽(よう)を抱き締め泣き崩れる秋吉のシーンのイノセンスが無性に身に染みた。

それにしても町屋良平は
言葉に対する感覚が非常に鋭い作家だと思う。
前述したようにひらがなを多用した一種独特な文体で決して読みやすいわけではないのだけれど、
ハッとするフレーズがところどころに散りばめられているので読みとばすことができない。
歩くのが困難な瓦礫の山の中を進んでいると
あるハズのない宝石が突如として出現する感じ(笑)
それに、ボクシングが文学と相性が良いことは古今東西様々な作家たちによって証明されてきたのだけれど、
町屋良平の身体性を言語に落とし込む才能には目を見張るものがある。
プロのボクサーだった僕からしても
嫉妬を覚えるくらい、
ボクサーにしか分からない感覚や思考のシステムを
これ以上ないくらい上手く言語化していて
なおかつ胸に迫ってくる。


今は朽ちないことや老いないことをよしとする風潮が主流だけど、
歳をとったり、朽ちていったり、
変わっていくことを怖れず書いている小説が僕は好きだ。

物語の終盤、失したものの大きさに
梅生と秋吉は打ちのめされ、
不変だと思っていた二人の世界も
変わることを余儀なくされる。

タイトルの『青』とは、
青い時、未熟な期間。
そして、『破れる』とは
弱い自分からの決別を意味してるのではないだろうか。


サムエル・ウルマンの『青春』という詩に
こんな一節がある。


青春とは人生のある期間ではなく
心の持ち方を言う

たくましい意志、豊かな想像力、
燃える情熱をさす

青春とは臆病さを退ける勇気、冒険心を意味する

ときには20歳の青年よりも60歳の人に青春がある

年を重ねただけでは人は老いない
理想を失うとき初めて人は老いる

(青春から抜粋)



もし、作者の町屋良平が敢えて書かなかった
秋吉と梅生の最後のセリフがあるとすれば、
ベタだけど、コレ以外にはない気がする。


梅生「俺達もう終わっちゃったのかなぁ?」

 
秋吉『バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ…。』



とにもかくにも、今後が気になる作家である。

レビュー投稿日
2019年3月4日
読了日
2019年3月4日
本棚登録日
2019年3月4日
3
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