犬はどこだ (創元推理文庫)

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本棚登録 : 3182
レビュー : 388
著者 :
円軌道の外さん 小説   読み終わった 

いやぁ~
ひさびさの米澤作品だけど、
読了後三日たった今も
余韻を引きずるほど
心に深く刻まれたなぁ~(^^)


見事な伏線回収の妙と
異なった2つの物語がリンクし合い
やがて一つに繋がる快感、
最終章であるChapter6からの怒涛の畳み込みに酔いしれ
物語は驚愕の反転へ!

そして、やるせなさが残る
なんともほろ苦いラストに撃沈…( >_<)


後味爽やかとはいかなかったけど

これぞ小説とも言うべき読み応えと
追い詰められた人間の怖さや狂気を描いた文句ナシの傑作だと思います。
(あまりにも衝撃的で後引く結末ゆえに読む人は選ぶだろうけど…)

タイトルから
犬の話を期待したアナタ、
実はそこんとこはメインではないのです(笑)
(しかしタイトルはラストの一言からちゃんと繋がってきます)


紺屋S&R(こうやサーチアンドレスキュー)は
四階建ての古い雑居ビルに
いましがた開業したばかりの
犬捜し専門の探偵事務所。

所長はのっそりと背か高く
訳あって半年も部屋にこもっていた
25歳の私(紺屋長一郎)。

しかし初仕事は犬ではなく
失踪した24歳の孫娘、桐子(とうこ)を捜して欲しいという老人から依頼。

ほどなくして別件で
古文書の解読の依頼も舞い込み
長一郎は押しかけ助手である
高校時代の後輩、
ハンペー(半田平吉)と共に
手分けして調査を進めるが…。


反権力の象徴である
イメージとしての探偵に憧れを持つタフさが売りのハンペーと
何のこだわりも持たず病み上がりの新米探偵の長一郎との
温度差のある会話がいい味出していて
ニンマリできます(笑)

そして、長一郎は『私』、
ハンペーは『俺』と、
それぞれの章を
私と俺で交互に一人称で語る構成のおかげで
失踪事件と古文書の解読という二つの物語は
読者はかなり早い段階から
密接してリンクしていることが分かるのだけど、
二人は別々に捜査していて
そのことにまったく気づいていないので(笑)
ヤキモキ感を抱かせながら
読ませる構成が上手いし、
コレが読者を惹きつけるいい効果を生んでます。


新米探偵を助けるキャラたちも秀逸で、
傷ついて東京から出戻ってきた長一郎のために
次から次へと依頼人を見つけてきてくれる(笑)
おせっかいな友達の大南や、
体は小さいが態度はデカい(笑)
喫茶店を経営する主人公の妹の河村梓(かわむら・あずさ)や
主人公長一郎のパソコンでのチャット仲間で謎の人物のGENなど
シリーズ化を考えてか
かなりキャラ設定にも力入ってます(笑)

けれどなんと言っても
長一郎の剣道部時代の後輩で
愛車ドゥカティM400を乗りこなす
ハンペーのキャラが颯爽として
いいのですよ(笑)

いまいちやる気のない長一郎と違い、
お調子者の見た目とは裏腹に
行動派で頭もキレる彼の活躍のおかげで
物語にいいリズムが生まれ
いかにもな(笑)ハードボイルドな触感を味わうことができます。


米澤作品と言えば、受動的な生き方をしてきた主人公が
事件を通じて変容を余儀なくされるパターンが王道だけど、
この作品も社会からドロップアウトした長一郎の再生が一つのテーマ。

そして、一人の女性の失踪の謎を探るうちに
女性の生き様や苦悩が浮き彫りになり
物語にはなかなか登場しない
『彼女』の姿が
読む者にありありと浮かび上がる構成は
あの宮部みゆきの傑作『火車』を彷彿とさせて
なんとも切ないし、

物語の真相に近づくにつれて
せっかく築き上げたモノを手放して逃げ続けるしかなかった桐子にシンパシーを感じ
自分と桐子は同類だと気付く長一郎のシーンから
俄然物語に惹きつけられ
衝撃の結末を迎えるのです。


英語のタイトルになった
『THE CITADEL OF THE WEAK (弱者の砦)』がまた深いし、
この悲劇の物語を見事に言い表していて
読後ジワジワ染みてきます…( >_<)


シリーズ化を想定して書かれたとのことなので
コレはまた今後追っかけていきたい作品!

タイトルで敬遠してる人、
先入観で見過ごすには
勿体ない作品ですよ~(笑)

レビュー投稿日
2014年9月5日
読了日
2014年9月5日
本棚登録日
2014年9月5日
15
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『犬はどこだ (創元推理文庫)』のレビューへのコメント

kwosaさん (2014年9月8日)

円軌道の外さん!

お久しぶりです!
たくさんの花丸(ってまだ言ってしまいます)と本棚へのコメントありがとうございます!

おっ、円軌道の外さんがついに『犬はどこだ』を読んだ! ってうれしくなって「いいね」したくせに、コメントどうしようっていろいろ考えていたら、激アツコメントを先に頂き大変恐縮しています。

でも、なにより円軌道の外さんの帰還がうれしい!!
くわしくは頂いたコメントに返事をさしあげていますのでそちらを是非!

『犬はどこだ』 いいですよねぇ。
ラストに震えました。
それにしても、円軌道の外さんのレビューが的確すぎて、いちいち「うんうん」頷きました。ああ、僕もこんな本の紹介ができたらなぁって、また読みたくなりました。

ここでもその片鱗は見えていますが、最近の米澤穂信は凄いです。
『満願』凄いですよ。
もうベテラン作家、連城三紀彦のような風格さえ漂わせています。

連城三紀彦、お読みになってます?
最近の死去が「巨星墜つ」とまで報じられて
いま復刊ラッシュですが、つい先日に宝島社文庫から復刊された『夜よ鼠たちのために』(タイトルがもうハードボイルド!)という短篇集は、絶対今日にでも買った方がいいです。
幻の傑作と評され、古書市場で高値で取引されていた名著が800円弱でお手元に(出版社の回し者じゃないですよ)。
流麗な文章で紡がれた物語を読む楽しみと、ミステリの驚きが共存する奇跡。
米澤さんも、こういうのを目指しているんだろうなって思います。

kwosaさん (2014年9月8日)

すみません、本の話を始めたらもう少し話したくなって長文失礼します。

個人的に連城三紀彦や泡坂妻夫、都筑道夫といった昭和のミステリ、エンタテインメント作家がいまブームなのですが、出版業界的にもいま静かに「きている」ようで、続々復刊されてうれしい限りです。
そのなかでも円軌道の外さんに是非お薦めしたいのが、都筑道夫の『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』
旧版を古本で読んでブクログにも登録したのですが未レビュー。最近、東京創元社から『暗殺心』という忍者ものとの合本でめでたく復刊しました。

とにかく度肝を抜かれました。
カウボーイビバップや寺沢武一のスペースオペラの世界観のミステリで、スパイクやコブラが探偵役だったら? ってわくわくしません。
しかも旧版の表紙は大友克洋がイラスト描いてるんですよ!

とにかく誰か最後まで読んで感想きかせて!! って作品です。

円軌道の外さん (2014年11月1日)


kwosaさんこそ、
毎回激アツなコメント感謝感激
雨アラレっス(笑)!!

そうそう、「犬はどこだ」は
ホンマ震えましたよーっ!!( >_<)
宮部みゆきの「火車」を読んだ時と同じくらいの衝撃と余韻が残って、
そう言えばいい小説読んだ後って
こういう風に何日も何日も
物語の余韻に浸っていられたよなぁ~って
なんか改めて気付かせてもらいました。

あっ、『満願』読んでみたいんですよ~!( >_<)
今僕が住んでる調布界隈が物語の舞台になってるって聞いて
俄然興味が湧きました!

そしてそして
オススメしていただいた
連城三紀彦の『夜よ鼠たちのために』を買って
今まさに読んでる真っ最中です!(^o^)

いやはや、kwosaさんの仰る通り、
どの短編も驚愕の結末の連続に
もう読み終わるのがもったいなくてもったいなくて(笑)
一字一句噛み締めるように
至福の時を堪能しています(^ー^)

kwosaさんに出会わなければ
絶対読むことはなかった作品だと思うし、
ホンマにホンマにありがとうございます!

また読み終わったら
思い入れたっぷりのレビューアップしますね(笑)

円軌道の外さん (2014年11月1日)


あははは(笑)
kwosaさん、連コメありがとー(笑)(^o^)

都筑道夫さんの『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』
むちゃくちゃ面白そうやないですか~っ!

タイトルからしてそそるし、
カウボーイビバップや寺沢武一のスペースオペラの世界観のミステリってだけで
もう無条件に涎タラタラやし!(笑)

絶対手に入れて読みます!

その旧版の大友克洋のイラストバージョンは
まだ手に入るんですかね?

つかそれ、kwosaさんのレビューも
読んでみたいなぁ~(笑)

kwosaさん (2014年11月13日)

円軌道の外さん

またまたお邪魔します。

米澤穂信『満願』は凄いですよ。
『追憶五断章』あたりから「あれ、なんか雰囲気というか筆致がかわってきたな」と思っていたんです。
もちろん学園物や他の作品でいろいろ書き分けているんでしょうが、成熟してきたというか大人の作家になってきたというか(プロにこういうこというのは失礼ですよね)。

『夜よ鼠たちのために』を読んでくださった円軌道の外さんが、いまのタイミングで『満願』読むと、さらに面白いと思いますよ。
表題作をはじめ短編すべて素晴らしい出来でしたが、僕は特に『夜警』という交番勤務の警察官を描いた話が好きでした。

kwosaさん (2014年11月13日)

そして連城三紀彦がお気に召したのであれば、次は『夜よ鼠たちのために』と双璧をなす短篇集『戻り川心中』をおすすめします。
『夜よ〜』の現代劇とは違い、明治大正昭和初期あたりのやや時代がかった趣きの作品が集まっています。
花にまつわるエピソードが多く、ファンの間では「花葬シリーズ」呼ばれているようです。
やっぱり全作品が収録されたハルキ文庫版がベストですが、現在入手しやすいのは五篇(六篇?)収録の光文社文庫版。
でも未収録の「菊の塵」も捨て難いので、同文庫の『夕萩心中』もいずれは是非。
「伊豆の踊り子」のような文芸作品に超絶技巧が加わったといえば伝わるでしょうか。
とにかく贅沢な短篇集。

都筑道夫『銀河盗賊ビリイ・アレグロ』
大友克洋表紙の講談社文庫版はAmazonでいまなら1円からあったと思います。
送料込みで300円いかないのはお買い得。
書影はないですが奇想天外社というところからでていた単行本は、同じ大友表紙で裏表紙まで繋がって絵が描かれていたはずです。
それも、いまなら送料込みで500円くらいで買えたと思います。
表紙にこだわらなければ東京創元社から新刊が出ているから書店で買えるし、絶対に読んでほしい!!
僕は読了後、絶句&放心状態という幸せな読書体験でした。

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