戦国自衛隊 [DVD]

監督 : 斎藤光正 
出演 : 千葉真一  中康次  江藤潤  速水亮  にしきのあきら  三浦洋一  かまやつひろし 
  • パイオニアLDC
3.16
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感想 : 38
4

1979年公開の日本映画。

伊庭三尉率いる自衛隊一個小隊21名は演習地に向かう途中の海岸で、突如奇妙な閃光に包まれる。
気がつくとそこは400年前の戦国時代だった。
伊庭たちは戦車、ヘリコプター、装甲車、哨戒挺、ジープなどの近代兵器もろともタイムスリップしてしまったのだ。
そんな彼らの前に、武田信玄と戦うために川中島へ向かっていた戦国武将・長尾景虎(のちの上杉謙信)が現れる。
同じ野生の匂いを感じとりお互いに意気投合した伊庭と景虎は
天下を獲るべく協力して、武田信玄に挑んでいくが…。
戦国時代にタイムスリップした自衛隊一個小隊を描いた半村良のSF小説を映画化した角川作品。


子供のころ、テレビで観て強烈に印象に残ってる作品で、最近あらためて観直す機会があり、
今の映画にない熱量と昭和の役者たちの熱演に釘付けになった。
アメリカンニューシネマの傑作『俺たちに明日はない』のラストシーンを彷彿とさせる、
矢の雨の中、死のダンスを踊る隊員たち。
除隊し、村人として戦国の世に生きることを決めた一人(かまやつひろし)を除いて
全隊員死亡の衝撃的なバッドエンドは子供ながらもやるせなく悲しかったし、
神は彼らを戦国時代へとタイムスリップさせて、いったい何をさせたかったのだろうと悶々とする日々を送ることとなった。

映画としての芸術的な完成度から見ると、いかにも漫画的で、ツッコミ所満載で映画史に残る作品ではないかもしれない。
(当時自衛隊の協力が得られなかったため、戦車から兵器にいたるまですべてスタッフの手によって作られ、自衛隊の制服も払い下げ品のため、みんなバラバラ。兵器の使いかたもおかしかったり。現に公開当時の世間の評価はかなり低かった)

けれどもこの映画に充満する熱量やJAC(ジャパンアクションクラブ)による体を張ったアクションは近年のCG全盛の映画界では到底感じることはできないし、
大人になっても折に触れ思い出すほど、
心に深く残り続ける作品(映画らしい映画)だったのは間違いない。

前述したようにとにかくエネルギーに溢れた作品で、
伊庭三尉を演じた千葉真一、長尾景虎を演じた夏八木勲を筆頭に、
渡瀬恒彦、竜雷太、岸田森、三浦洋一、成田三樹夫、かまやつひろし、錦野旦、鈴木ヒロミツ、小野みゆき、岡田奈々、草刈正雄、真田広之、薬師丸ひろ子、宇崎竜童などなど、昭和を彩った俳優たちの熱気が画面から溢れ出している。

表向きはアクション大作なのだけれど、
若き隊員たちの青春群像劇としても秀逸で、
この映画から生まれた数々のニューミュージックの名曲をバックに
無惨にも散っていく若き自衛官たちの姿は強烈に焼き付いているし、
突如としてタイムスリップしたことによる戸惑いや不安、
隊員同士の内乱、戦国時代の村人と自衛隊員との触れあいや恋心、
景虎と伊庭との、戦いの中でしか生きられない者同士の友情など見どころも盛り沢山で、140分の長尺だが飽きることなく観れるのもスゴい。

忘れられないシーンがとにかく多いのだけど、
武田勝頼に扮したまだ若き真田広之がスタントマンを使わず
飛び上がるヘリコプターに掴まり、
小刀を口にくわえながら操縦席に侵入するシーンは鳥肌モノのスゴさだし、
死を怖れず戦車に向かってくる武田信玄の軍勢に怖れをなし砲撃できない隊員に
『撃てーっ!勝てば昭和に戻れるんだ』のセリフがどうにも切なかったし、
薬師丸ひろ子扮する少年兵が
まだ子供だと思い油断した竜雷太扮する隊員を一瞬の隙をついて槍で刺殺するシーン、
多くの犠牲者を出しながら川中島の戦いにかろうじて勝利を収めたものの、
弾薬も尽き使い物にならなくなった61式戦車を湖に沈めるシーン、
(どんな近代兵器でも弾を補充できなければただの鉄屑で、やはり圧倒的な数の軍勢には敵わないのかと、子供ながらに無力感を感じたシーンだった)

そしてラスト間際、生き残った僅かな隊員たちが
これ以上戦わずに、タイムスリップした元の場所に戻るべきだと伊庭を説得するが、伊庭は拒否。
『ぬるま湯に浸かった時代に帰ってなんになる。武器を持っても戦うことのできない時代に帰ってなんになる』
のセリフも忘れ難い。

台詞はないが、ラストの景虎役の夏八木勲のやるせない表情がすべてを物語っていて、今観ても心に沁みた。
夏八木の言葉を発しなくとも『哀感』を表現できる演技に、小学生だった自分も心が震えた。

角川製作の映画と言えば、イメージ戦略が露骨だったので(笑)
古参の映画ファンには否定的な人も多かったのだが、
振り返ると角川春樹がまだ社長だった頃の70年後半から80年代の角川書店の戦略はすごかった。
映画や原作本が当たれば主題歌も売れるという理論で、必ず映画のCMでは主題歌をBGMに映画と原作小説の宣伝も忘れなかった。
映画と本と歌を結びつけて相乗効果でヒットを狙う手法は
今では当たり前だけど、当時は本当に斬新だったのだ。
そのヒットを狙うために歌う歌手も
薬師丸ひろ子や原田知世などの角川お抱え主演女優に歌を歌わせるっていう
よくできたシステムだったし(笑)
僕自身も角川書店のおかげで子供の頃から映画や本や主題歌に触れて
どのジャンルにも詳しくなったし、
80年代の角川の存在が、僕の子供の頃に抵抗なく本や映画や音楽に興味を持つキッカケになったってのは絶対あると思う。
今では当たり前になった、
映画化作品のCMをテレビでバンバン流す手法も角川が最初らしいし、
文庫本のカバーにカラーの映画写真を使うっていうのも
社長だった角川春樹のアイディアだし、
映画業界を変えてやる、ハリウッドに負けない大作映画を作ってみせるといった意気込みが作品にも如実に表れていたように思う。

そう、映画がまだ『娯楽』だった時代の作品は
『娯楽』だと確信して作った人たちの気概に溢れていた。
荒唐無稽でムチャクチャな設定なのだけれど
作る側や演じる側が確信を持ってやっているかどうかで
『表現』というものは変わるのだ。
その突き抜け方を感じ取って欲しい。

特に今の若い人たちに観て欲しいし、
観賞後は変な映画だったな~と思いながらも、
自らの生き方についてしばし考えるきっかけになる作品だと思う。



★『戦国自衛隊』予告編(名場面が観れます)

https://youtu.be/rBohgL_qr64


★『戦国自衛隊』30分ダイジェスト(かなり濃縮してるので観た気になれます笑)

https://youtu.be/K2D1wkgxiMA


★挿入歌 ララバイ・オブ・ユー / ジョー山中(声だけで泣ける!)

https://youtu.be/Ya9rDrEky6o

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 映画
感想投稿日 : 2019年3月4日
読了日 : 2019年3月4日
本棚登録日 : 2019年3月4日

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