ライト兄弟: イノベーション・マインドの力

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レビュー : 9
strattonさん 本・雑誌   読み終わった 

小学生でも知っている偉人中の偉人、ライト兄弟の評伝は、今年これまでに読んだノンフィクションものとしては間違いなくベスト。

1903年12月17日に、兄弟は有人の動力飛行に成功した。子どもの頃に読んだ伝記はここで終わっていて、もちろん、ここまででも十分読むに値するのだが、それは本書で言えば前半部分。実は、話はそこからなのだ。この1903年の飛行の目撃者はたったの5人しかおらず、そこからこの世紀の大発明を世界がどのように受けて入れていくのかを描いた後半に山場が来る。
母国アメリカは、政治的な事情もあって反応はつれなく、兄弟は欧州へ活路を求める。そして、最初の大喝采を浴びたのは実はフランスだった。ル・マンで迎えた世紀の展示飛行に、観客は驚愕し、狂喜し、兄弟の大発明はここでようやく認められることとなった。
読んでいるこちらもつい興奮してしまうのだが、著者の書きぶりは興奮するどころか、逆に抑制がよく効いていて、それが本書の魅力になっている。この兄弟が人並みはずれた集中力と、諦めることを知らない持続力・忍耐力を兼ね備えていることが本書でよくわかるのだが、それは著者の言葉による人物描写のおかげではない。残された手紙や日記などの記録を効果的に引用し、読者に委ねていることに拠るのだ。例えば、兄ウィルバー・ライトが亡くなった時、父親であるライト牧師は「尽きぬ知性と沈着な気質、揺るぎない自立心とそれに劣らない節度、曇りなき目で真理を正しく見つめ、たゆむことなく真理を追い求めた」と哀悼の言葉を送っている。こうした記録として残っている言葉を絶妙に挿入して人物像を築いてゆく、この手法が実に巧みなのだ。
また、本書は飛行機開発を軸にしつつ、様々なサイドストーリーが伴走する。絶頂期にあった欧州の王族や富豪の存在は大きく、新聞がジャーナリズムの旗頭として台頭し、大西洋航路は新旧両大陸を結んだ。しかし、何と言ってももっとも印象に残るサイドストーリーは、ライト兄弟と妹のキャサリン、そして父親ライト牧師による家族愛だ。大西洋を渡ったものも含め、家族間で交わされた尋常でない数の手紙の中では、兄弟の普段の厳しい表情からは想像できないような言葉でおどけたり、優しさ溢れる言葉で励ましたり、時には本音で悲痛な思いをぶつけてみたり。上述した通り、家族それぞれの人となりが伝わってくるのはもちろんのこと、濃密で率直な感情の交換から伝わる愛情の深さには、強く胸を打たれる。

訳者あとがきによれば、本書のドラマ化の権利を名優トム・ハンクスとテレビ局のHBOが獲得しているそうだ。これはぜひ見たい。

レビュー投稿日
2018年11月18日
読了日
2017年7月3日
本棚登録日
2018年11月18日
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