にんじん (岩波文庫 赤 553-1)

  • 岩波書店 (1976年2月16日発売)
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本棚登録 : 502
感想 : 47
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読書会の課題本として読んだ。
暴力こそないものの、主人公である「にんじん」が精神的に虐待を受けていてとてもつらかった。ああ言えばこう言う式に、結局は何も言っても否定されるので、単純な事柄さえ素直に口にできなくなってしまっている姿が痛々しい。
それでもまだ親からの愛情を求めているらしいにんじんが可哀そうだった。

それだけに、最後ではっきりと母親への感情を出す場面では「その調子だ!」と思った(笑)。
明らかにおかしいのは、彼の母親の方なのだから、それをきちんと表明できるにんじんはすごい。私はにんじんの父親もひどいなぁと思っていて、それは父親がにんじんに「お前が今より幸せになることなんてない」と言う場面からも明らかだ。自分の子供に、「今より幸せになることなんてない」(=今がお前の一番幸せな時だ)と言うなんて、何様なのだ? と思う。現状を肯定したいがために、子供を支配しようとしているだけだ。

……と思っていたのだけど、読書会で全く違う意見、むしろ正反対な意見が出て、とても新鮮だった。
その人の解釈では、ここは(この後に続く文もふまえて)父親の子供へ対する思いやり=お前も大人になれば自由になれるのだぞ、という認識を共有する場面なのだそうだ。現実を受け入れた上で、共に戦っていこうという励ましと読まれたらしい。
読みがぜんぜん違ってびっくりした。読書会をすると、自分の視点以外にもさまざまなものの見方、受け取り方があるのだなぁと改めて感じる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 誰かのためじゃない
感想投稿日 : 2019年3月3日
読了日 : 2019年2月18日
本棚登録日 : 2019年2月18日

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