4月末のロンドン。赤い二階バスも通る道に面した家に越してきた主人公が、何気ない日常や不思議と懐かしい人々・風景の姿を綴る。
のんびり、淡々とした、日記(随筆?)風の小説集。
読んでいて「これは著者の実体験なのかしらん?」と何度も思ったが、一応「小説」であるらしい。
何気ない日常のよしなし事が、淡々と綴られる。その筆致はどことなくとぼけているようでもあり、かと思えば思いがけずしんみりとすることもあったりと、淡い色に彩られており、目に優しい鮮やかさ。
昼間からビールを飲んだり、移民局にて「仕事はない」と言い切ったり(一体どうやって生活していたのだろう? 著者本人は客員教授のようなものでロンドンに行っていたようだけれど、作中でそのことは全く触れられない)、なんだかの暢気なようで、拠り所がないような、不思議な明るさと寂しさの感じられる作品であった。
読んでいて疲れない作品なので、就職活動でうんざいりしている間に少しずつ読んで、非常に重宝した。
いい意味で感情の起伏が激しくない本だったので、こちらも作中の雰囲気に振り回されることがない。また、少しずつ読み進めても支障がないことも助かった。
それにしても、この作中で描かれているロンドンは1972年だとは、誰もが驚くであろう。
文章といい、作中で描写される町並みといい、とてもそんな最近(?)のこととは思えない。淡々として気負いとは無縁の作品だが、この文章の淡白ぶりこそが、このときの作者の茫漠とした心情をもっとも写していたのかもしれない。
- 感想投稿日 : 2011年8月28日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年8月28日
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