両性具有という噂のロックバンド歌手が自殺してから、東京の街には妖しい“死者”たちが跋扈しはじめていた――。
多くの「もの」が行き交う街・東京で、日に日に増えていくおかしな事件や死体の数々。グロテスクにして退廃的な雰囲気が漂う中、それでも日常はあまりに緩慢で、でたらめに美しく、それでいてやるせない。
その「街」の雰囲気を、美しくも危うい狂気で丸ごと包み込んだような物語が本作。東京の至る場所で起こる異変が、多数の人物から何を描いてあるのかわからない抽象画のような手法で語られていく。
東京という大きな舞台に加え、正体のはっきりしないものをはっきりとした輪郭を与えないまま描いているので、非常にまとまりがなく、読み終えるとはぐらかされたような気持ちになることは否めない。
しかし、物語全体に漂う、血が滴るような不気味にして甘美な語り口は、好きな人にとってはたまらない世界だろう、と思った。
退廃的だけれど最先端、進化するそばから腐っていくような物語は、様々なモチーフ――両性具有、黄昏、チェシャ、古事記、e.t.c――と目くるめくような化学反応を見せて、物語の望むままに肥大していく。
お話としてはかなり破綻しているとは思うけれど、細部の雰囲気は酩酊するに十分。
これが単行本デビュー作ということで、筆を御しきれていない感はあるものの、それだけに津原さんの妖しい魅力が炸裂している作品だった。
読書状況:読み終わった
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じわじわ来ます
- 感想投稿日 : 2011年8月5日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年8月5日
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