草枕 (新潮文庫)

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本棚登録 : 2827
レビュー : 267
著者 :
抽斗さん どこかにあると、まだ信じてる   読み終わった 

素晴らしく情の通った文章の美しさに、びっくりしてしまう。
織りなされる風景のひとつひとつが、なんと鮮やかな光を宿し、あるいは柔らかい影を宿していることか。そして、その美しさが、どれほど人の心というものに根ざしていることだろう。

あまりごちゃごちゃ感想を言うより、その文章を抜き出す方がいいだろうと思う。以下、私がもっとも好きだった、木蓮の描写。

「庫裏の前に大きな木蓮がある。殆んど一と抱(ひとかかえ)もあろう。高さは庫裏の屋根を抜いている。見上げると頭の上は枝である。枝の上も、また枝である。そうして枝の重なり合った上が月である。普通、枝がああ重なると、下から空は見えぬ。花があれば猶見えぬ。木蓮の枝はいくら重なっても、枝と枝の間がほがらかに隙いている。木蓮は樹下に立つ人の目を乱す程の細い枝を徒には張らぬ。花さえ明かである。この遥かなる下から見上げて一輪の花は、はっきりと一輪に見える。その一輪がどこまでも簇(むら)がって、どこまで咲いているか分らぬ。それにも関わらず一輪は遂に一輪で、一輪と一輪の間から、薄青い空が判然と望まれる。花の色は無論純白ではない。極度の白きをわざと避けて、あたたかみのある淡黄に、奥ゆかしくも自らを卑下している。余は石甃の上に立って、このおとなしい花が累々とどこまでも空裏に蔓(はびこ)る様を見上げて、しばらく茫然としていた。目に落つるのは花ばかりである。葉は一枚もない。
 木蓮の花許(ばか)りなる空を瞻(み)る
 と云う句を得た。どこやらで、鳩がやさしく鳴き合うている。」

レビュー投稿日
2014年2月24日
読了日
2014年2月24日
本棚登録日
2014年2月24日
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