煙の殺意 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M あ 1-7)

著者 :
  • 東京創元社 (2001年11月23日発売)
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本棚登録 : 518
感想 : 70
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泡坂妻夫の妙技を凝らした品々を堪能する、傑作短編を八編収録。

つくづく「泡坂さんはホワイダニットの作家さんなんだなぁ」と思った短編集であった。
なぜ、犯人はそのような犯行をしたのか? なぜ、そういう行動を取るに至ったのか?
ここらへんの心理的ロジックを描かせると、泡坂さんの筆は冴えに冴える。一見突飛過ぎるロジックも、不思議と動機としてしっくり来るのだ。まさに、「こんなの現実にはありえない」とわかりつつ、その「騙し」を堪能するトリックアートのような、めくるめく騙し絵の世界である。

この短編集のうち、ホワイダニット作品の白眉はやはり「紳士の園」と「煙の殺意」だろうか。読んでいて、泡坂さんのデビュー作「DL2号機殺人事件」を読んだときに抱いた、ロジックの鮮やかさが蘇ってきました。

しかし、やや難点も。
とてもバラエティーに富んだ作品であるし、ミステリーとしてロジックはどれも読み応えがあるのだが、いかんせん文章に膨らみがあまり感じられないため、読んでいて少々飽きてくる。
少なくとも、一気読みはおすすめできない。また、主人公達に感情移入できる、というわけでもない。

手品はただやってもらうだけでは、物足らない。いわくありげに、余裕を持って、たっぷり演出を利かせて、十二分に堪能したい、というのがわがままな観客の要望。
そして、それに応えてこそ、マジシャンは本当に「マジック」を使う人になるのだと思う。
そういう意味で、もうちょっと文章にも気を使って、お話にも膨らみを持たせてもらうと、ありがたかったのにな・・・というのが、わがままな客の、ショーのあとの寸評である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 種も仕掛けもございません
感想投稿日 : 2011年8月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年8月28日

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