酔人・田辺茂一伝

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  • 講談社
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感想 : 3
4

立川談志が「人生の師」と仰ぐ、紀伊國屋書店創業者の田辺茂一の評伝。
談志の著書は、そのほとんどを集めている自分ですが、本書は未読でした。
それもそのはず、絶版になっていて、中古で手に入れたのです。
田辺といえば、行きつけのバー「美弥」で談志とよく呑んでいたことは、談志の他の著書で知っていました。
でも、本当に毎晩呑んでいたのですね笑。
その時の田辺とのエピソードがとても愉快です。
あの談志が舌を巻くのですから、それだけで田辺という人は凄い人ですね。
一流企業の社員たちがカウンターにいる田辺を見つけて、
「田辺先生、いつもお世話になってます」
「先生お世話になってます」
と次々とあいさつすれば、田辺は
「なら返せよ」
ですって。
このやり取りについて、談志は
「いい気持ちだった。成程その通りだ。〝お世話になってる〟ンなら返しゃいい。それだけだ、それまでだ」
と述べています。
田辺は、世間ではケチだと評判でしたが、談志が自宅へ行って「そこらにある品物を強奪に近い形で持ってき」ても、嫌な顔はしなかったそうです。
この逸話を紹介したうえで、談志は持論の「ケチ論」をぶつのですが、これが実に頷けます。
「〝あいつはケチだ〟といった奴にロクな奴ぁいない。それだけはいえる。相手を〝ケチな野郎だ〟と思ったりいった時に、もうそいつの負け」
田辺のこんな話も、ぼくは気に入りました。
「梅田の、大阪駅からホテル阪急へ続く、地下の、プロムナードに近いような感じのところに紀伊国屋が支店を出し」ました。
本の棚がずらっと並んでいるところを通行人がぞろぞろ歩いていきます。
そこで、談志は田辺に言いました。
「ねえ先生、ここに本を並べたって、人がぞろぞろ来て通るだけ、買わないよ、売れないよ、立ち読みだよ。へたすりゃ万引きだよ、これ。ダメだよ、これ、商売にならないよ」
これに対して田辺はこう言ったそうです。
「方法はともあれ、読んでくれれば満足だ」
この了見、シビれますよね。
田辺は悪性リンパ腫で76年の生涯を閉じます。
ただ、そこは談志ですから、湿っぽさはありません。
代わりにこんなエピソードを紹介します。
主治医の若い先生に田辺が
「俺が死んだら、俺の心臓を君にやろう」
と言いました。
医者は
「いえ、大丈夫です、私のは丈夫ですから」
これに田辺は
「かぁ、質が違わぁ」
これが田辺の最期の言葉だったそうです。
その談志も今はいません。
田辺より1つ若く75歳で亡くなったのでした。
本書には、田辺だけでなく、芸人や文士、ミュージシャンらと談志との交遊録もあり、私の知らなかったエピソードも満載、読み応えがありました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月3日
読了日 : 2016年1月3日
本棚登録日 : 2016年1月3日

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