日の名残り (ハヤカワepi文庫)

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本棚登録 : 5014
レビュー : 690
制作 : Kazuo Ishiguro  土屋 政雄 
suenaganaokiさん  未設定  読み終わった 

ノーベル文学賞作家、ガルシア=マルケスの代表作「百年の孤独」をかつて苦心して読みました。
同著者の「族長の秋」に至っては、4~5ページ読んだところで、「とても歯が立たない」と投げ出しました。
ですから、今回、ノーベル文学賞受賞の報に接し、カズオ・イシグロの著書を初めて手に取った瞬間、こう思いました。
「自分には高尚過ぎる内容かな、難しいのかな」
とんでもない誤りでした。
読後の感想は、読みやすい、そして面白い。
いや、こんなにリーダブルな小説だとは思いもよりませんでした。
内容も興味深い。
英国の老執事が過去を回想する物語。
タイトルの「日の名残り」というのは、人生の黄昏時に入った執事のことを意味しているのでしょう。
そして、恐らくダブルミーニングなのではありますまいか(主人公の執事の口調を真似てみました)。
それは、かつては世界に冠たる大帝国だった英国の没落という意味です。
主人公の執事が、以前は国際的にも影響力のある名家の英紳士に仕え、現在は米国人の大富豪に仕えているということが、それを象徴的に表しています。
しかし、本書の大テーマでもある、「品格」ということになると、英国紳士に軍配が上がるでしょう。
あるジョークを思い出しました。
米国人が英国に行って、素晴らしい芝生を見ました。
「こんな見事な芝生は見たことがない。いくらかかりました?」
相手は一言、「500年」。
米国はしょせんカネだけがモノを言う国、英国には格式と伝統があるという英国人の心意気が伝わるジョークです。
さて、未読の方でこれから本書を読むという方は、これ以降読まない方が賢明かもしれません(ネタバレとか謎解きとか、そういう類の本ではないのですが…)
主人公の執事に恋焦がれる女性がいます。
名家の英紳士に、ともに仕えた女中頭です。
女中頭は、外で知り合った男性から求婚され、やがて屋敷を離れることになります。
主人公は、現在仕えている米国人の大富豪から勧められ、英国中を自動車旅行しながら、この女中頭の元へ向かいます。
そして、最後に女中頭から、好きだったことをほのめかされます。
ここはジンと来る場面です。
人生は取り返しのつかないものなのだ、ということが伝わってきます。
静かに深く、人生の何たるかを教えてくれる、大変にいい作品でした。
たくまざるユーモアもあります。
客人の息子に「生命の神秘」(セックスのことですね)を教えようとする場面などは、実にユーモラスです。
最後は、主人公の老執事がジョークの大切さを痛感して終わります。
このラストも実に爽やか。
「もっと肩の力を抜いて行こうよ」という著者のメッセージのように思いました。
ところで、カズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞の後、「なぜハルキじゃない?」という、本質とは全く違う報道がメディアを覆いました。
そんな些末な話に矮小化しない方がいいのではないかと、読後、思ったことでございます。

レビュー投稿日
2017年11月6日
読了日
2017年11月6日
本棚登録日
2017年11月6日
3
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