財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生

  • 早川書房 (2020年10月6日発売)
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通貨を発行している国は、いくら赤字を出しても財政破綻なんかしませんよ。
簡単に言うと、本書の趣旨はそういうことです。
このような学説を「限界貨幣理論(MMT)」と呼びます。
もっとも、同じような主張をする経済学者は昔からいました。
ただ近年、ずいぶんと注目を集めるようになりました。
そんな虫のいい話があるのかしらん。
眉に唾をたっぷり塗って読みました。
唾は8割方、取れました。
著者の主張は明快です。
たとえば、「政府と家計を比べない」というもの。
国の財政を家計と比べる議論をよく見かけます。
国の財政赤字は、家計で例えると、こんなに莫大な借金があるということ云々。
しかし、国(日本や米国など)はれっきとした通貨の発行体です。
つまり、通貨の「発行者」と「利用者」を同一に見るのはナンセンスだということ。
「通貨主権を持つことは、その国が財源の心配をせず、国民の安全と幸福を最優先できることを意味する。」
と著者は主張します。
一般に、国は税金を集めて、足りない分は借金をして、支出をしていると捉えられています。
だが、事情は「逆」なのだと著者は説きます。
「通貨を発行する政府が求めるのは金銭ではなく、実体のあるものだ。欲しいのは税金ではなく、私たちの時間である。国民に国家のために何かを生産させるために、政府は税金などの金銭的負担を課す。」
ちょっと目からウロコではないでしょうか。
少なくとも、私はこれまで、そんなふうに考えたことはありませんでした。
「国の財政赤字は、国民の富と貯蓄を増やす」という主張も、ハッとさせられるものがありました。
「財政赤字は悪」という話に慣れ親しんだ自分にとっては新鮮ですが、理屈は単純。
「政府部門の収支+非政府部門の収支=ゼロ」
という、常に真である会計等式があるからです。
たとえば、国が国内で100ドルを使ったが、税金としては90ドルしか回収しなかった。
この差が「財政赤字」と呼ばれます。
しかし、この差はだれかの「黒字」になっています。
「問題は政治家が片目で世界を見ていることだ。財政赤字は見えているのに、反対側にある同額の黒字は見えていない。」
と著者。
なるほど、分かりやすい。
本書を読むと、これまで見聞きした財政赤字の話がまさに「神話」のように思えてきます。
ただし、MMTとて万能ではありません。
たとえば、インフレです。
財政支出が増大すれば、インフレになるリスクが高まります。
2、3%程度の健全なインフレならいいですが、ハイパーインフレになればそれこそ国は危機的状況に陥ります。
MMTも財政赤字よりインフレに注目すべきだとして、財政支出のキーポイントに挙げています。
ただ、ひとたびインフレになれば、コントロールできるのでしょうか。
その点が甚だ心配です。
MMTが今後どこまで浸透するか、この理論を踏まえた財政運営にかじを切る国は現れるのか。
注目していきたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年1月23日
読了日 : 2022年1月23日
本棚登録日 : 2022年1月23日

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