コンプレックス文化論

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  • 文藝春秋 (2017年7月14日発売)
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「早くに母親が離婚して新しい男に有り金を貢いで私は明日のごはんにも困るくらいだったけどそこから這い上がった歌手」と、「親が金持ちで何不自由なく中高一貫の優秀校に通っていたらお父さんが文化祭に知り合いのプロデューサーを連れてきて目にとまった歌手」、このどっちの音楽を聞きたいかといえば、多くの人は前者だと答えるはず。(「第5回 親が金持ち」)
思わず吹き出しました。
しかし、当人(後者ね)にとっては、笑いごとではないかもしれません。
親が金持ち。
結構なことではないかと、良くも悪くも中庸の家庭に育った私などは思うわけですが、これはこれでコンプレックスらしいのですね。
たとえば、冒頭の例です。
前者か後者のどちらの音楽が優れているかは、本来、それぞれの出自や来歴とは全く関係ないはず。
しかし、世間はそうは見ません。
私だって、どっちの音楽を聞きたいかと問われれば、迷わず前者と答えますもん。
音楽だけでなく、「親が金持ち」の人は、あらゆる場面で、「親が金持ち」であることがひも付けされる宿命を負っています。
勉強ができるのは、「親が金持ち」だから。
スポーツが得意なのは、「親が金持ち」だから。
料理が上手なのは、「親が金持ち」だから。
禁煙できたのは、「親が金持ち」だから。
注文したパンケーキが早く来たのは、「親が金持ち」だから。
成功できたのは、「親が金持ち」だから。
逆に、つまずいてしまったのは、「親が金持ち」だから。
これはこれでしんどいだろうな、と思う。
しかし、世間から寄せられるのは、大半が妬み嫉み。
ことほどさように、当人が抱えているコンプレックスというのは、外からはうかがい知れないものらしいのです。
本書は、気鋭のライター武田砂鉄さん(ファンです)が、世の中の代表的なコンプレックスを俎上に載せて、うだうだと考察したもの。
コンプレックスは、「親が金持ち」のほか、「天然パーマ」「下戸」「解雇」「一重」「セーラー服」「遅刻」実家暮らし」「背が低い」「ハゲ」の全部で10個。
かつ、それぞれのコンプレックスを抱えた著名人に果敢にインタビューし、コンプレックスの正体と被害の実相を明らかにしていきます。
いや、実に面白い。
コンプレックスは文化であることが、よく分かりましたよ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2017年10月9日
読了日 : 2017年10月9日
本棚登録日 : 2017年10月9日

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