ガダラの豚

著者 :
  • 実業之日本社 (1993年3月1日発売)
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本棚登録 : 527
感想 : 89
5

大ファンの中島らもさんの代表作のひとつ。
いつか読もうと思いつつハードカバー598ページの大部に恐れをなして、購入したのがようやく昨年の秋。
一気読みしたい衝動を抑えながらじっくり読みました。
で興奮とともに今朝読了。
ああ、すごい。
本当にすごい、中島らもさん。
凡百の作家が束になってかかっても敵わない稀有な才能。
生きていれば傑作を次々と生み出したはずなのに不慮の事故で52歳で急死しました。
やはり大ファンの町田康さんが、中島らもさんの思い出を語っていました。
その中で、ずっと胸に残っている中島らもさんの言葉があります。
「自分はこれからは本当のことしか書かない」
「本当のことを言ったら殺される。しかし、それでも自分は本当のことしか言う気がしないのだ」
町田康さんによれば、中島らもさんが亡くなったのはそれから間もなくのことだったそうです。
中島らもさんといえば、私が最も気に入っている文章があります。
「バンド・オブ・ザ・ナイト」に出て来る「蚊の目玉について」。
長いけどカッコよすぎるので引用します。
□□□
人間の目というのは要するにレンズでできている。レンズでできているのであれば我我の脳内に結ばれる影像は上下倒立して映るはずだ。それがそうならないのは人間の脳の中に上下倒立した像をもう一度ひっくり返す、何かそういうシステムがあると考えざるを得ない。
それで知り合いの眼科医に尋ねたところ、人間の脳にはやはりそういう機能があるのだそうだ。では蚊はどうだと訊くと、蚊にはそういうシステムはないという。つまり蚊の世界観は倒立しているのである。だから蚊にとって下降することは上昇であり、空高く昇っていくことは地獄くだりなのである。だからどう、ということは別にないけれど。
□□□
うーん、痺れますっ。
この流れで「地獄くだりなのである」まで書いたら、普通は教訓めいたことを引き出して書きたくなるじゃないですか。
でも、中島らもさんはそんな野暮なことはしない。
「だからどう、ということは別にないけれど」と書いてサッと引いてしまう。
洗練の極みです。
って、中島らもさんのことを書いてたら、もう思い入れがあり過ぎてあっち行ったりこっち行ったりですみません。
で、えーと、そうそう「ガダラの豚」。
呪術がテーマの作品で、第1部は民俗学者で主人公の大生部が新興宗教にハマった妻を救い出す話、第2部はその大生部たちがアフリカの呪術師の村を訪ねる話、第3部は強力な呪術師と大生部が日本のテレビ番組で対決する話―。
うん、かなり簡単に書いてしまったけど、間違ってません、よね?
ラストは殺戮に次ぐ殺戮でもう圧巻の一言。
くらくらと目眩を覚えながら、ラストだけはページを繰る手が止まりませんでした。
物語も面白いですが、私はやっぱり中島らもさんの容赦のない描写、ひねったユーモアが好きです。
贅沢な読書体験でした。
あらためて故人のご冥福を祈ります。
一生かけて全著作を読ませていただきますので。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年3月31日
読了日 : 2014年3月31日
本棚登録日 : 2014年3月31日

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