ピアニストが見たピアニスト

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レビュー : 4
宮崎大学教育文化学部 菅研究室さん 音楽について考える   未設定

 この本を読んで最初に思い出したのは、サッカーの中田秀寿選手の公式ページに記されている彼自身がゲームを振り返って書く文章だ。彼の文章を読むと、めまぐるしく流れていくサッカーゲームの個々の出来事相互のつながりを、頭の中で立体的につかむことができる。スポーツも音楽も流れ去る時間の中で起こるドラマであることには変わりない。したがってそれを文章化することには同様の困難さが生ずる。たいていの場合それはあまりにも主観的、あるいは情緒的なものになりがちである。青柳は、優れたスポーツライターのように、ピアニストの演奏中の出来事を言語化している。リヒテルの演奏について書いた部分を引用する。「・・・リヒテルは一ブロックの音をわしづかみにして弾く。タッチは手前に引く。グローブのような掌全体で走句をつかみとってしまうような弾き方だ。そういう奏法だと粒立ちが悪くなるものだが、リヒテルのタッチはあくまでも鮮明だ。フレーズの尻尾で、ふつうのピアニストなら手首を少し上げて処理するところ、リヒテルは手の動きはそのままに、身体ごと向こう側へおしやる。激しいフォルテは反対にこちら側にもぎとる」もちろんこうした技術的なことだけを描写しているわけではない。「導入部の音形が積み重ねられ、和音のトレモロに移行するあたりの処理は絶妙だ。フランソワは最後の部分にルバートをかけ、トレモロとの継ぎ目がわからないようにしておいて、急速に音を輝かせる。聴いているほうは、暗い中で突然スポットを当てられたようなショックを味わう」これらの生き生きとした観察は、中田同様、著者の青柳自身が同業者であることによるものだろう。しかし観察したものを客観的に言語化することはまた別の技術が必要である。ピアノや音楽を勉強する人にはもちろん、観察したものを文章化することのひとつの例としても興味深く、また勉強になる。(菅)

レビュー投稿日
2009年1月13日
本棚登録日
2009年1月13日
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