双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

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レビュー : 32
制作 : Christopher Priest  古沢 嘉通 
suha42さん  未設定  読み終わった 

 これを読んでの感想は英国版RSBC(レッドサン ブラッククロス)だなというものであった。RSBCでは日本が日露戦争に敗退することによって、日本が却って覇権国家になるという話だったが、ここでは英国がナチスドイツは1941年5月に講和することによって、世界の覇権国家としての地位を確固たるものにするのである。英国がドイツと講和した結果、「英国に対するすべての義務から解放されたと勝手に思った」アメリカはドイツ軍のバルバロッサ作戦の始まる二週間前に日本とその占領地域へ先制攻撃をかけ(個人的な感想なのだがこの際米軍が逆真珠湾奇襲とでも言うべき作戦をやったのではないかと思われる気がする。日本を打ち破った後、「蒋介石の国民党との便宜的な同盟関係」によって、満州に兵を進め、さらに満州からソ連へ侵攻した米軍がウラル山脈の辺りまで進んだように書かれているからである)、日本を打ち破る。その後、中国国民党政府のために、毛沢東の共産軍を打ち破る(但し「毛沢東軍との見かけ上の勝ち戦」とあることから、大きな被害を被ったようである。また作中で「米中戦争」と称されているこの戦いは、米国に「経済不況と社会的沈滞」を招いたという設定になっている)。ドイツ軍と米軍によって東西から挟み撃ちにされたソ連は両国に敗れてウラル山脈の線を境に解体される。
 しかしその後米独両国は第三次大戦に突入したが、お互い相手を打ち破り切れず、手詰まりになったようである。一方、英国は、「第三次大戦が一九五〇年代膠着状態に陥るころには、西ヨーロッパの民主主義との緊密な軍事上の連帯を結」び、「中東の油田を無競争で入手できることで、英国は今日まで、世界情勢における政治的かつ経済的な強国として一頭地を抜く存在となっていた。チャーチルの手による歴史を支持する者たちは、英国の覇権を二十世紀中盤のチャーチルという戦争好きの野望のおかげと見做している」という記述から、英国が覇権国家としての地位を保っているということがわかる。第三次大戦による戦費が膨大になるにつれ、米独は「不況及び社会停滞」に見舞われる。それでもドイツは欧州連合から非ナチス化プログラムの援助を受ける(この時、ドイツの政治の民主化も行われただろうことは想像に難くない)ことによって辛うじて回復したが、米国は半世紀以上の手詰まりが続いた結果、深刻な結果を招く(1960年代になってもアメリカのシベリアへの軍事的な関与は続いており、作中世界でこの時期に大統領になったニクソンは、「兵士たちを帰国させよう」というキャンペーンによって当選したのに、シベリアの軍事的な関与を二倍にしたという意味の記述があることから、シベリアに米軍が駐留していたことはほぼ確かであろう。また、補給路の都合から考えて最低でも満州と日本列島の北部にも米軍が駐留していると思われる。このことは少なく見積もっても20年以上米国が戦時状態もしくはそれに準じる状態にあったことを示していると言えると思われる。20年以上そのような状態が続けば、人権は軽視されやすくなるだろう。もっと悪いこととしては平和を知らない世代が出てくることだろう。少なくとも準戦時状態が人々の精神に良い影響を与えるとは思えない。恐らく米軍基地が存在している日本や中国にしても、米国がこのような状況では史実のような経済成長は難しいだろう。日中を始めとするアジア諸国の停滞により、欧州が史実以上に繁栄しているということかもしれない。またシベリアに米軍が介入していること、恒常的に占領下に置くとも思われないことから、米国の影響が強い政権があるだろうと思われる。蛇足ではあるが、その政府に対する反政府運動も盛んなのではないかと私は感じた)。
 具体的には「西側世界でもっとも新しく、おそらくはもっとも優れた民主主義を実現しようしていた」アメリカ合衆国は、「まずい軍事上の決定と、腐敗した文民政府と、戦前の孤立主義を顔面なからしむ政治的な自閉のせい」で、「不安定な独裁主義共和国」となり、「実質的な、資本家に雇われた軍人と極右武装組織に支配され、一体感のない社会と重武装した住民」に蝕まれることになる。国内では、「疑り深い官僚主義と、わずらわしい貨幣取引、機能しないテクノロジー」、「のさばる孤立主義的メンタリティ、露骨に検閲されているメディア、犯罪者が支配する都市、燃料不足、高騰する物価」に悩まされている。何よりも「あたらしい町や郡に到着するたび警察あるいはFBIに登録しなければならない」こと(史実現代のロシアでは外国人旅行者は土日祝を含まない7営業日以内に滞在登録をしなければならないこと思い出させる)と外貨制限(アメリカドルがハードカレンシーの地位から転落しているらしいことを窺わせている)、米国を出入国する際の税関と出入管での長い遅延が相当煩わしくなってきていること、「ヨーロッパの携帯電話は、自由化が実現されないあいだは、まだ米国では使えな」いという記述(情報統制が行われており、さらにインターネットや携帯電話の利用にも何らかの制限があるらしいことが推測される)からは、米国社会が閉鎖的で、明らかに住みにくいものになっていることが容易に想像できる。
 ほかに触れるべきこととしては史実世界と「双生児世界」とでも言うべき作中世界の話が交互に書かれているため、本を読みなれた人でも最初はかなり読みにくいという点と、ユダヤ人国家がパレスチナではなく、マダガスカルにマサダ共和国として建国され、先住のマダガスカル人が島内の特別居留区に閉じ込められており、島内では戦闘やテロ(レジスタンスと言った方が適切かもしれない。なおマダガスカル人には作中の年代で2000年に自治権を与えられることになっているようである)が起こっているということ、史実世界の部分は飛ばして、「双生児世界」の部分を読むだけでもかなり面白い話であるということ(本を読みなれい人はそうした方がいいと思う)である。

レビュー投稿日
2017年4月9日
読了日
2017年4月9日
本棚登録日
2017年4月9日
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