【まとめ】
1 文章の書き方
読者は、あなたに興味がない。読者にとって、あなたの書こうとするテーマは、どうでもいい。
だから、その人の注目を集めなければならない。書き出しの三行は銃であり、伏線だ。その銃で相手をのけぞらせ、残りの文で、伏線を回収しなければならない。書き出しの一文の意味が、全体を読んだ後には、分かる。そうした文を書かなければならない。
・うまい文章を書くには
①文章は短くする。
②形容語と被形容語はなるべく近づける。
③一つの文に、主語と述語はひとつずつ。
しかし、うまい文章=いい文章なわけではない。
いい文章とは、人をいい心持ちにさせる文章。落ち着かせる文章。世の中を、ほんの少しでも住みいいものにする文章。風通しのいい文章。ギラギラしていない、いい鞘に入っている、切れすぎない、つまりは、徳のある文章。
・ストレスなく読める文章を作るには
①固有名詞と数詞を減らす。人名や数字を詰め込めば、摩擦係数を高めることになる。
数字を入れるなら、その数字が、ストーリーを動かす決定的に重要な役割を果たさなければならない。人名や地名を入れるのは、そのデータがなければ、書いていることが理解できないからだ。固有名詞を書くのなら、厳選にも厳選を重ねるべきである。
②「など」「いろんな」「さまざま」を消す。曖昧に逃げない。
・常套句をなくす。「抜けるように青い空」「燃えるような紅葉」「胸を張る」「唇をかむ」「美しい海」……。
今日の、この海が、どう美しいのか。別の日、別の場所の海と、どう違うのか。そこを、自分だけの言葉で描き出すのが、文章を書くことの最初であり、最後である。常套句という人の言葉を借りず、どこまでも自分が感じたままに忠実に書くことが、言葉を使うということだ。
・起承転結を意識する。
起…冒頭のフック。
承…起の説明。この原稿でなにを語ろうとしているのか、簡潔に説明する。だれが、いつ、どこで、なにをしたか。時、場所、登場人物、出来事の概要を説明してしまう。いわゆる5W1Hである。
転…起で書き起こし、承でおおかたを説明した事象を、自分はどう見ているかを書く。そのことで、読者を転がす。読者の常識を覆す。読者が考えてもいなかった方向に、話をもっていく。飛び抜けた語彙、破綻した文章、ものの見方、なんでもいい。どちらかで、意表を突く。
結…うまく転がることができれば、結論はおのずから浮かび上がってくる。
・転の5パターン
・古今に時間軸を広げる
・東西に世界を広げる
・逆張りしてみる(簡単だが知識がいる)
・順張りしてみる(難しい)
・脱線してみる(ユーモアがいる)
・感情を文章で説明してはならない。場面に語らせる。怒っている人を、「怒った」と書くんじゃない。悔しがっている人を、「悔しがった」と書くんじゃない。怒っていること、悔しいことが読者に分かるような、場面を見つける。エピソードで描く。そのためには、情景を正確に捉えられるよう、五感を磨く。
2 ライターの道具箱
一段目…語彙
二段目…文体
三段目…企画
四段目…ナラティヴ
①語彙…本を読み、辞書をひく。辞書をひくのは、意味を確認するためにではなく、考え方のベクトルを変えるため。ある語→その類語→その類語→と辿るうちに、ものの見方がどんどん変わっていく。
語彙を増やすには、言葉を制限してみる。〇〇的、〇〇化、〇〇性といった便利な言葉を排除すれば、その言い換えを考えるようになる。
②スタイル…誰が書いても同じものを書いてはいけない。事件や事故、事象をどう見たのか。なにを、どう書くか、そのスタイルを持っている者だけが、生き残る。
スタイルを操る練習:主語を変える、主題を変える、主義を変える、キャラを変える
③企画…すでに世に出ていることを、総覧して、なにか新しい共通項、切り口があるのではないか。共通するキーワード、嫌なことばだが「時代の気分」があるのではないか。そうした目で「世の中を切る」。
④ナラティヴ…あるものに触れたとき、〈なに〉に感動したのか、〈なに〉がやばかったのか。その〈なに〉を、具体的に、飽きさせないナラティブで引きつけ、語る。
自分のほんとうに好きなものから、ナラティブしてみる。自分がほんとうに愛しているものを、語る。
映画でも絵画でもいい。①まずはつかみがあり、②状況やあらすじを簡単に説明して、③聞き手を引きつける謎をもたせ、④聞き手の予想を裏切る意外な方向へ話が伸びていって、⑤オチがつく。
ストーリーは有限だが、ナラティヴ(語り口)は無限だ。
3 読ませる文章
スピード感を意識する。ダブりを排除する。二文に分けられるものは全て分け、テンポを良くする。
しかし、短文が続くと単調になるため、短文と長文を出し入れして変化を作る。
〈例〉
ギターに引っ張られ、他の楽器もどんどんヒートアップしてくる。どんどんテンポが速まる。ドラムの手数が多くなる。(略)客の興奮も頂点に達する。と、ある臨界点にきて、演奏がバーンとはじける。このドライブ感、余人をもってかえがたい。経験があるからわかるのだが、こういう音楽を聴きながら、車を運転してはならない。人を轢く。
(緩・急・急・急・緩・緩・緩・超速球)
形容詞を避ける。いっそ、形容詞だけでなく、連体修飾語や連用修飾語を含めた、広義の形容語を、いっさいやめてみる。
4 自己管理
・自分は世界で一番文章が下手と思っていなければならない。
・何かを書き続けることを決めた人は、「好きなとき、暇なときに書けばいい」わけにはいかない。時間帯はいつでもいい、都合のつく時間を、とにかく決める。○時から○時まで、どこそこにいて、原稿を書くと決める。その間は、ドアを閉める。部屋に閉じこもり、たとえ一行も書けなくても、とにかく机に座って、何かを書こうとする。
・とにかく読む。毎日二時間、どんなことがあっても必ず本を開ける。
一時間は自分の好きなものを読み、半分の一時間は
「課題図書」を読む。具体的には
①日本文学(明治から昭和の古典)
②海外文学(19世紀までの古典)→世界の見方を学ぶ
③社会科学あるいは自然科学→世界の見方を学ぶ
④詩集
15分✕4冊で1時間だ。
①〜③については、
『必読書150』
『私学的、あまりに私学的な』の巻末リスト
がおすすめ。
他にも、②の海外文学については、京都大学文学部が「西洋文学の百冊」をまとめてインターネットで公開している。また、桑原武夫 『文学入門』もおすすめ。
- 感想投稿日 : 2023年1月21日
- 読了日 : 2023年1月18日
- 本棚登録日 : 2023年1月18日
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