僕は人生を巻き戻す

  • 文藝春秋 (2009年8月28日発売)
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こういう人をこそ“レジリエントな人”というのだろう。

母親の死の瞬間に、不幸なかたちで立ち会うことになった少年エド。そのトラウマは深刻な強迫性障害となって表面化し、彼は絶望的な強迫観念にとらわれてしまう。名医と呼ばれた医師でさえもなすすべなく無力に立ちつくすが、やがて回復への転機が訪れる。。。

強迫性障害が本人に与える非常に残酷な制約に、圧倒されてしまった。まさに生き地獄。これはきわめて深刻なケースとのことだが、彼のように病院に行くこともできない潜在化している患者も少なからずいると考えてもおかしくないだろう。

瞬間瞬間を“巻き戻し”の強迫に打ち勝とうとした過程でのエドの奮闘に、周囲の人びとも動かされる。それが前向きな変化へ向けた相互作用をもたらして、新たな出会いを作り出した。この事例では、それが専門家ではなく、ごく身近なあるいは、もともと何の縁もなかった人(ダースベイダー商品を扱う社長とか)たちとのあいだで生起したということが興味深い。このことからわかるのは、専門家にできることなど限られていて、だからこそ専門職に従事する者は知識差がもたらす弊害を自覚し、自らの立ち位置を低く置かねばならないということ。

疾病・障害と、人間として尊厳をもって扱われるべき存在としての人格を切り離して考えることがいかに大切かということ(それをとくべつな訓練を受けることなく“自然に”できる人びとがいることは人間社会の希望を示していると思う)、社会復帰において周囲の深いかかわり、あたたかな見守りや具体的なサポートの重要性についてのレポートでもある。対人援助にかかわる人が読むべき名著。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2010年12月10日
読了日 : 2009年10月19日
本棚登録日 : 2010年11月23日

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