「恋とは、不思議なものでございますね」
はたして人が旅に出る理由とは、なにか。
物見遊山であれ、信仰の行いであれ、土地土地で見知らぬ人と行き違うこと、少なからぬ〝異界への憧れ〟とは言えまいか。
旅の恥はかき捨て、などと言わずとも、旅先では柄にもなく雄弁になったり、普段よりもフレンドリーな態度になったりすることがある。それだけ古くから私たちは土地やらしがらみといった中で縛られて自己を形成させられているのかもしれない。
旅する男は皺の多い四十とも六十とも判らぬ風貌で、いやに奇怪な雰囲気を感じる。汽車に二人きり。主人公はえもいわれぬ導きによって、旅する男の抱える荷物(押絵)を目にすることになる。
蜃気楼、遠眼鏡、浅草十二階(凌雲閣)、覗き小屋…今でいうところの光学と錯視に関わる事象やものの見え方(在り方)の変異を現実に滲み込ませるような入念な準備が施され、さも主人公が道中みていた夢物語か、と思わせるエンディングまで実に味わい深い名作。
ドラマ化されるのであれば大杉漣あたりに演じてほしい。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
怪奇 / ホラー
- 感想投稿日 : 2016年4月17日
- 読了日 : 2016年4月17日
- 本棚登録日 : 2016年4月17日
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