“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2) (ファミ通文庫)

4.16
  • (70)
  • (83)
  • (35)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 546
レビュー : 57
著者 :
制作 : 竹岡 美穂 
瑠璃花さん  未設定  読み終わった 

野村美月さん版の源氏物語といったシリーズの第二巻。
一巻の「葵」を読んでから今まで、こんなに間が開いてしまって
久しぶりに読みました。今回の女主人公は「夕顔」に対応する
夕雨ちゃんという女の子。

源氏物語の女君の中でも、好きなのは夕顔・朧月夜・玉鬘と
いう私には、まず楽しみにしていた一冊。

果たせるかな「葵」よりもこちらのほうがずっと好きです。

家族が離散して、学校でいじめられたことをきっかけに
引き篭もっていた少女、夕雨。

彼女は水の中を思わせる青と透明の世界を愛する
儚い女の子。

彼女は主人公の是光くんの親友、幽霊のイケメン、
ヒカルくんとは、孤独と静謐を分け合った友人でした。

彼女の世界は儚く美しいけれど、ずっとそこで生きてゆくことは出来ません。

外へ連れ出すことを、生前ヒカルくんは心に決めていたのに
同じく閉じた世界の安息を愛する彼には、それは困難でした。

ひっそりと閉じた時の中で淡い青と白に守られ咲く、幻の花。
それは美しいけれど、いずれは消えてしまう。

私はこのお話、夕雨ちゃんがヒカルくんの友達だったこと
案外大事と思っています。
どの人にも深くひとときを愛したヒカルくん。
恋でなく、安らぎでつながった二人だったからこそいいって。

是光くんが、単なる共生関係のような友情や、
箱庭的な愛でなく、本物の熱い初恋の情熱を傾けた時
初めて夕雨ちゃんの世界は、崩壊するのではなくて
外界へと繋がります。

是光くんもまた、自分の心に潜むやわらかな部分を
初めて自覚して、恋に落ちるのですが。

なんとなく美少女にふらついているのではなくて
自分の意志で恋をし、彼女を愛して、別れてゆく。

そこがいいな、と思いました。

その時目にした雨の中の光景は、本当に瑞々しくて。
安易にヒカルくんの恋人として書かれていなかったことで
二人の初恋が際立ちます。

なんて清冽で、印象的なくちづけ。
なんて切ない別れ。

ヒカルくんは今回、あまり何もしていないように見えますが
是光くんの中にも、ヒカルくんと同じように、花の美しさを
愛でるような繊細さがあることを、ただ淡々と語ることで
読者に示しています。

是光くんが、ヒカルくんに誘導されて恋するのでは
このお話は意味が無いのではないかと思うのです。

彼が語る繊細な世界を、一見がさつに見える是光くんも
恋を通して感じ取ることで、是光くんは自分で
未知の自分に知り合うことになるのです。

扉を開けて新しい世界を知ったのは、
夕雨ちゃんだけではなく是光くんもでした。
それが彼らを、より心優しい、強いひとにしてゆきます。

いわばその変化が歌われるべきメロディなら
ヒカルくんは、その伴奏者。

ヒカルくんの仕事は、だから見守ることと、
一緒に雨の音を聴くこと。

雲間から差す光を、一緒に喜んであげること。

アクティブではありませんが、彼もまた、大事な物語の
主役の一人です。

そして、この静かな世界に颯々とした清涼感を
与えているのは、帆夏ちゃんの是光くんへの
かわいい恋ですね。

彼女がいることで、このお話は、異界の物語じゃなく
身近な世界の青春小説になってる気がします。

彼女みたいな子も、必要なのですよね。うん。

レビュー投稿日
2014年6月16日
読了日
2014年6月15日
本棚登録日
2014年6月15日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2...』のレビューをもっとみる

『“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2) (ファミ通文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

『“夕顔” ヒカルが地球にいたころ……(2) (ファミ通文庫)』に瑠璃花さんがつけたタグ

ツイートする