眠れぬままに一気に読んだ一書。
選者のお一人永田氏の「近代秀歌」を読んでから
そのまま雪崩れ込むように読了した。

プロの歌人が選ぶと、いずれにしろ一致する結果になるが
1首を選ぶとは難しく、その歌の隣には、候補になった
捨て難き今一つの秀歌があるというのは、さもあらん。

他にどんな歌がと自分で次を探し始めることから
豊かな世界が始まる気がする。
更にもう1首という風に、追加で2首が紹介されているのは
そういう意味でとても親切だ。

直近のとも言うべき、平成に入ってからの作品も多く
好んで短歌を深く読んでいないと知らないものも多かったが
作品の率直さや切れ味はどの歌も逸品。

難を言えば「近代秀歌」と重なる作品が前半多かったこと。
両方読む読者を考慮に入れて頂きたかった。

掲出した作品の中で、「近代秀歌」と重なって収録されたものもあり、同書のレビューでは私が迷って、自分の愛誦歌としては取り上げなかったが、やはり心惹かれるものを、面倒がらずに引くことにしたものが少なからずあるとお伝えしておく。

では早速。
これからもっと読みたい歌人・印象的だった歌をあげておく。

あさみどり澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな
(明治天皇『明治天皇御製謹解』)

父君よ今朝はいかにと手をつきて問ふ子を見れば
死なれざりけり (落合直文『萩之家歌集』)

いちはつの花咲きいでて我が目には
今年ばかりの春行かんとす

瓶にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり
(正岡子規『竹乃里歌』)

ゆく秋の大和の国の薬師寺の塔の上なる一ひらの雲
(佐佐木信綱『新月』)

みづうみの氷は解けてなほ寒し三日月の影波にうつろふ
(島木赤彦『太虚集』)

木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか
遠くもあるかな

君ねむるあはれ女の魂のなげいだされるうつくしきかな
(前田夕暮『収穫』)

かたはらに秋草の花かたるらくほろびしものはうつくしきかな
(若山牧水『路上』)

やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに

やや長きキスを交して別れ来し/深夜の街の/遠き火事かな
(石川啄木『一握の砂』)

夏はきぬ相模の海の南風にわが瞳燃ゆわがこころ燃ゆ

君がため瀟湘湖南の少女らはわれと遊ばずなりにけるかな
(吉井勇『酒ほがひ』)

桜ばないのち一ぱいに咲くからに生命をかけてわが眺めたり

はてしなきおもひよりほつと起きあがり栗まんじゆうをひとつ
喰べぬ(岡本かの子『浴身』)

力など望まで弱く美しく生まれしまゝの男にてあれ
(岡本かの子『かろきねたみ』)

真命の極みに堪へてししむらを敢てゆだねしわぎも子あはれ

太白星の光増すゆふべ富士が嶺の雪は蒼めり永久の寂けさ

これやこの一期のいのち炎立ちせよと迫りし吾妹よ吾妹

(吉野秀雄『寒蝉集』)

春の夜にわが思ふなりわかき日のからくれなゐや
悲しかリける(前川佐美雄『大和』)

曼珠沙華のするどき象夢にみしうちくだかれて秋ゆきぬべき
(坪井哲久『桜』)

われの一生に殺なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は
(坪井哲久『碧巌』)

他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水
(葛原妙子『朱霊』)

バイカルの湖に立つ蒼波のとはに還らじわが弟は
(窪田章一郎『六月の海』)

弟の臨終のあはれ伝へ得る一人の兵もつひに還らず
(窪田章一郎『ちまたの響』)

戦はそこにあるかとおもふまで悲し曇のはての夕焼
(佐藤佐太郎『帰潮』)

薄明のわが意識にてきこえくる青杉を焚く音とおもひき
(佐藤佐太郎...

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2014年6月12日

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