入れ子の構造。歌人、中島歌子が病床にあるなかで、家の整理をする弟子ふたり。散らかった紙束の中に、めずらしく言文一致体で書かれた小説のようなものを見つけて、読み始める。それは、師がたどってきた険しい道のりを綴ったものだった。その内容が物語のほとんどを占めている。
宿屋の娘から水戸藩士に嫁いだ歌子、=登世。幕末という大きな転換期を、血で血を洗う内紛に明け暮れてしまった水戸藩を、女の立場から見続けた。粛清に巻き込まれて牢暮らしも経験した。敵対する一派の家族であるというだけで「大根の首でも落とすような、酷い所作で」命を奪われた妻、母、子供たちを見届けた。
前半の、若い娘の恋心があふれる瑞々しさ、初々しさとはまるで違う、血塗られた時代の描写は読むのが辛くなるほど。しかし、生き抜いた登世が和歌を学ぼうと決意した理由が、夫・以徳を戦場へ見送る時に詠んだ歌があまりにも拙くて後悔したから・・・というところに、なんというか、衝撃を受けた。
人は、そういう動機で、自分の生きる道を選ぶことが出来るのだ。むしろ、女だったからそうなったのかもしれない。男ならばやはり一矢報いて自らも・・・というのがあの時代の当たり前だった。それが難しい女だから、後悔を抱えつつ、生きる理由として、歌を選んだ・・・。
入れ子なので外側の弟子にも物語はあるのだけど、やはり内側の熱量がすごかった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
時代・歴史
- 感想投稿日 : 2017年10月21日
- 読了日 : 2017年4月
- 本棚登録日 : 2015年9月13日
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