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山県有朋 明治国家と権力 (中公新書)
- 小林道彦
- 中央公論新社 / 2023年11月25日発売
- 本 / 電子書籍
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エピソードなどはオーソドックスな山県の評伝ですが、山県有朋意見書を新史料に、人物像や当時の情勢を補強している点と、
山県(閥)という政治権力の「実態」に言及した点が興味深かったです。
「権力は一定の強さを超えると自己増殖を開始する。自ら権勢の拡大を図るまでもなく、周囲が勝手に山県の周りに集まり、権力はますます大きくなっていく」(pⅴ)
「外観の強大さとは裏腹に山県の政治権力はすでに空洞化が進んでいた」「もっとも、政治は見かけ上のイメージで動くもの」(p273)というご考察は、山県閥=陸軍中心の絶対権力、という前提で語りがちな頭を柔らかくしてくれました。
また、現在の政治を考えるうえでも参考になりました。
あとがきに書かれた葛藤は、歴史研究をされている方や評伝・ノンフィクションに携わったことのある方なら誰もが頷くと思います。
2024年1月11日
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明治史講義【グローバル研究篇】 (ちくま新書 1657)
- 瀧井一博
- 筑摩書房 / 2022年6月9日発売
- 本 / 本
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明治維新について、諸外国の捉え方や、与えた影響を考察する一冊。内容は今後の展望だったり、広く浅く紹介したという印象ですが、執筆陣が多国籍で新鮮でした。
日本の近代史について、当時の内政分析や、
WW2での「敗戦」をゴールに見据えたうえでの、反省や責任の所在などの振り返りは十分尽くされてきたと思う。
その議論は今後も続けつつ(戦争や悲しみを繰り返さないためにも。「もういいだろう」ではない)、そろそろ、日本近代史の世界的な位置づけを考える研究も、もっと増えてほしいかも。
その方向性の試論としては意味深いのかなと。
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島国だから、日本人は他国の人に比べて、自国の成り立ちを紹介する機会が少ない。
そして、「他国から褒められた日本」みたいなテレビ番組はウケるけれど、自国のルーツや政治をフラットに話す土壌はまだない。
ドイツとポーランドの共通歴史教科書とか(人類の未来のため、ナチスという負の歴史に真摯に向き合う姿勢はすごいですね…)、日韓間で実現するには感情論が先立ってしまってすごく難しいと思うし。
もっと学問の場で、そしていずれは教育の場で、グローバルな視点での「日本の歴史」を深めていくべきかも。本読んでそう思いました。
2023年9月18日
一時代(orを築いた者)が去るというのはどういうことかが、河鍋暁斎の娘・とよの目線で語られる。父は死んでいるけれど、これは父娘の物語です。そしてある意味、暁斎という亡霊の物語でもある。
とよも絵描きなのだけれど、絵を描く場面はあまりない。彼女自身や暁斎に連なる人間関係を通して、二世の苦悩だったり、巨星の引力の強さ、
そして、時代の中心にいたものほど、次世代には「旧時代」の代表のように扱われる苦さ、などを描いています。
とよが気持ちの良い口調の人物なので、煩悶する場面は多くても暗さはないです。
時代に揉まれたり、「画鬼の娘」だけでなく「人の母」としての自分の立場を自覚しながら、とよは時代の変遷を受け止めていく。
とよは、夫婦間の絆について、自分は理解できない側の人間だと度々分析していますが、
本作中、父性に飢えているような描写はあまりない(た、多分…)のが面白いなあと思いました。
本文の表現でいう「血より墨」で結ばれた一家というのがよく分かる。
また、脇役・清兵衛の顛末が、本作の人生観を補強しています。
2023年8月19日
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真実の原敬 維新を超えた宰相 (講談社現代新書)
- 伊藤之雄
- 講談社 / 2020年8月19日発売
- 本 / 本
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・原は伊藤や大隈と違い、生年やバックボーンから「潜在的なイギリスへの脅威はそれほどなく、アメリカの台頭という変化を受け入れやすかった」という視点がとても勉強になりました
・賄征伐エピソードが掘り下げられてるのが面白い
・第一次護憲運動のとき、原は世論でなく輿論を尊重したため距離を取った、という解釈は、長年近現代史に向き合ってこられた方だからこその見地だなあと思ったり
2023年1月14日