兄たち

  • 青空文庫 (1999年11月10日発売)
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『兄たち』は『太宰治』が書いた自伝的小説である。『太宰治』とは、教科書に載っている、著名な作家である。その人生は、今の自分でも理解が難しい。何度も自殺を試みること、人とともに死のうとすること、自分だけが生き残ったことに苦悩すること、私は考えたことがないから。

この作品には「愛」が詰まっている。

『兄たち』は、1940年(昭和15年)一月に、「婦人画報」に掲載された。短編であり、短い時間でも読みやすい。
この作品は太宰治が、兄たちを描写したものだ。情報量が多いのに八千字程度でまとめられていることに驚く。だが、すっきりとしている。
丁寧できれいだと感じた。まるでそこに透明人間として、いるような近さを感じた。笑っている顔、団らんしている風景、ドギマギして夢破れる人とそれを見守るものが目の前に見える。今現実に起こっている出来事のように、読者に体感できる。
不思議な気持ちにさせる作品だ。ほっこりする場面もあり、笑える場面もあったりする。悲しみのグラデーションも私は感じられた。この作品には家族への「愛」が詰まっている、と思う。兄たちへの、とても深い愛が書き残されている。

私はこの作品で太宰治を知った。

私と『太宰治』の関係は複雑だ。頭の片隅に常に残っている人物であるが、ともに生きているという感触はない。私と『太宰治』との出会いは定かではない。こども教育番組でみたような、ゴールデンタイムのバラエティー番組で見たような、深夜のニュースで見たような、断片的なものだ。名前こそ知っているが、遠すぎる存在であった。この作品を読んでから、頭の中で生活している太宰治が想像できる。

私と『太宰治』の関係は複雑だ。中学生のとき、授業で「走れメロス」を読んだ。丁寧な描写に魅了された。そこから『太宰治とその著書』に興味を持ち、数ある本の中から、「人間失格」を選んだ。冒頭で読むことを辞めた。自分には見えていない世界で、自分が見て見ぬふりをした感情が渦巻いていると感じた。このままでは自分の身が危険だ、当時感じた。

私は「人間失格」について苦手意識を持った。人間の闇に、歪んだ世界に対する絶望感に飲まれたくないと感じた。そのあと、高校で「富嶽百景」を授業で取り扱った。少し共通点が見つけられ、安堵した。が、まだ私の中で、得体の知れないものが芯に残っており、不安を感じていた。この作品を読むことで、それらと折り合いがつけられた。自分の勝手なイメージで曇っていた『太宰治』が、晴れたような気がする。

この作品には「愛」が詰まっている。
私はこの作品に出会えたことを感謝する。この作品が届くまでに関わったすべての人に感謝する。読む前とは、認識が変わる。心の中にある色がグラデーションを帯びる。ぜひ、この本を読んで欲しいと思う。

この作品には、『心』が詰まっている。
長い文章を読んでくれて、ありがとうございます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年7月21日
読了日 : -
本棚登録日 : 2024年7月21日

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