数巻前から活躍が待たれていた彼が遂に表舞台に立つ第8巻。
まあ、その中身はとても予想外な状態だったわけですが
本作は終わりかけた世界の中で既に終わってしまった物語を持つ主人公が終わりに立ち向かう少女達を支援する物語なわけだけど。
そんな中で登場(?)した黒瑪瑙の彼は守りたいものを守れなかった直後の状態なのか。それは何と意地の悪い運命なのだろうね
ヴィレムをベースにしている黒瑪瑙の彼はヴィレムっぽくはあるんだけど、妖精倉庫での記憶が無かったりフェオドールが混じっていたりと妖精たちが知るヴィレムとはかなり異なる人物
このどっちつかずな彼に対するナイグラートとアイセアのリアクションが色々と微笑ましいけど、同時に哀しくも映る
また、作中では<最後の獣>への対抗策が話し合われるわけだけど……
浮遊大陸群全てを失わないためには浮遊大陸群の大半を落とさねばならない。他の選択肢は無いなど普通受け入れられる方法ではない。でもアイセアやオデットを始めとする人物達は大を救うために小を犠牲に出来る、いわば命を損得計算出来る人たち
ただし、その方法を受け入れられるからって納得できるわけではなくて。納得できない方法を受け入れるには時間がかかる。そういった諸々の葛藤がこれでもかと伝わってくるような一連の文章はなかなかのもの
その辛い状況をぶち壊すのが黒瑪瑙の彼である点は爽快感があるね。ヴィレムの知識とフェオドールの策略を持つ彼なら全てを出し抜いた上で作戦を完全に遂行できる
先述の通り、黒瑪瑙の彼には妖精たちも今の世界も救う義理なんて無い。けれど、そもそもが関わらなくて良いものに全力で首を突っ込んだ挙げ句、誰も納得できないまま救われてしまう。そんな方法ばかりやってきたのがヴィレムとフェオドールなわけで
自分を犠牲にすれば全てが上手く回る、なんて考えを最も嫌う彼らだからこそこの状況に関わらざるを得ないのだろうね
でも、そんな二人が苦手としたのは自分を救うこと。だから黒瑪瑙の彼も<最後の獣>の結界に囚われたら抜け出せなくなってしまった
その状況を変えたのがフェオドールの記憶であったのは印象的。互いに自分を救うことが苦手であるなら、互いを救えばいい。ヴィレムとフェオドールの魂が混ざっていることが最大限生かされたシーンであるように思えたし、新旧主人公が相見えるシーンとしても最高だった
そして衝撃的だったのはラストシーン。ここであのシーンに繋がるのか!と驚きですよ
持って数日の意識と言われていた黒瑪瑙の彼が何故今も動いているのだろう?それとも前作ラストの描写を見る限りヴィレムとしての記憶を完全に取り戻している?
ヴィレムとネフレンが帰ってきて、リィエルはクトリの欠片を回収した。物語の終盤が近づいていることを感じさせるね
また、どうにも気になるのは<最後の獣>が見せた結界の中で現れなかった彼女。彼女はどうあっても死にそうにない死にそうな勇者だったわけだけど、エルクとの戦いで再起不能になったんじゃなかったっけ?それともこのヴィレムにとってはそのような認識ではないということだろうか?
- 感想投稿日 : 2019年11月17日
- 読了日 : 2019年11月16日
- 本棚登録日 : 2019年10月30日
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