荒神

3.68
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本棚登録 : 1662
レビュー : 303
著者 :
今野隆之さん 宮部みゆき   読み終わった 

 時代物が続くと現代物を読みたくなる。現代物が続くと時代物が読みたくなる。宮部みゆきとは、そんな稀有な作家である。待望の新刊は時代物。ある意味、宮部流時代物の頂点を極めたと言えるだろう。宮部みゆき、大爆発だっ!!!

 舞台は陸奥国にあるという架空の藩、永津野藩と香山藩。元々は一つの藩だったが、関ヶ原後の紆余曲折を経て分離した。元禄太平の世にあっても、両藩は敵対関係にある。ある日、香山側の山村が一夜にして壊滅した。逃げ延びた少年が永津野側で保護される。彼の話は到底信じがたい。ところが、ほどなく正しいことが明らかに…。

 宮部流時代物と怪異は切っても切り離せない。怪異をテーマにした傑作は数多い。ところが今回は…ずばり言ってしまおう。本作は時代物にして怪獣小説なのだっ!!! 宮部みゆきにしか書けない。というより、宮部みゆき以外、書くことは許されない。

 この怪獣というのが、現代に出現したら、自衛隊が出動するレベルの強さである。いや、ウルトラマンに来てほしいかもしれない。江戸当時の武器では歯が立つわけがない。それでも勇猛果敢に立ち向かうのは武士の矜持か…。

 怪獣が大暴れする描写に呆気にとられながら読んでいたが、両藩の複雑な関係、それぞれのお家騒動、謎めいた人物たちの背景が次第に明らかになるにつれ、こんな荒唐無稽な設定なのにすっかり引き込まれ、説得力を感じるようになってくる。

 すべての発端は、結局人間の身勝手にあった。ならば、後始末をつけるのも人間しかあるまい。とはいえ、運命のあまりに過酷なことよ…。

 ようやく一件落着かと思いきや、若き香山の藩士は自らの考えに戦慄する。本作は怪獣小説だと書いたが、読み終えてみれば、描かれているのは実は人間の業であることに気づかされるだろう。宮部流時代物は、常に現代社会に通じるテーマをも突きつける。

 でもやっぱり、怪獣なしでも十分訴える作品にできたのではという感が拭えないかな。

レビュー投稿日
2014年9月3日
読了日
2014年9月3日
本棚登録日
2014年9月3日
4
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