殊能将之 未発表短篇集

著者 :
  • 講談社 (2016年2月11日発売)
3.55
  • (10)
  • (21)
  • (25)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 195
感想 : 32
5

 2004年刊行の『キマイラの新しい城』以降、殊能将之さんの新作は途絶えていた。2009年刊行のアンソロジー『9の扉』に短編が収録されたが、特に語るべきこともなかった。そして2013年2月。殊能さんの訃報が飛び込んできた。享年49歳。

 本作は、未発表短編3編を含む作品集である。感熱紙に印刷され、消えかけていたものもあったというから、間一髪だ。企画作品『樒/榁』を除けば、殊能さんの短編は『9の扉』に収録の「キラキラコウモリ」しかない。殊能ファンとしては、読まねばなるまい。

 「犬がこわい」。幼少時のトラウマから、犬が苦手な男。ところが、近所で大きな犬が放し飼いされていた。意を決して抗議に行ってみると…。ガチ本格ではないが、ミステリーらしい意外性もある。生前の作風を考えると、わかりやすい1編だな。

 「鬼ごっこ」。物騒な男たちが、ついに見つけたターゲットを襲撃…って、何をやっているかと思えば、おい! とばっちりを受けた人たちが浮かばれないだろうがっ! 殊能さんらしいといえばらしい1編だが、日の目を見てよかったのだろうか。

 「精霊もどし」。妻を亡くした友人が、大真面目に妻を復活させようとしている。生前の殊能作品にも、ホラー的要素がないわけではないが、やや戸惑った。最後の一言を、どう解釈すればいいのだろう。もはや真意を確認しようがない。

 『ハサミ男』で第13回メフィスト賞を受賞しデビューした殊能さんだが、連絡がつかないのでメフィスト誌上で名乗り出るよう呼びかけ、デビューに至ったのは有名な話である。その顛末を描いたのが、「ハサミ男の秘密の日記」である。元々は、デビュー直前に友人宛に送ったものだという。色々な意味で、凡人とは違っていたのだな。

 どうしてこの人は大作を書かないのだろうと、ずっと思っていた。本気半分、おふざけ半分の独特の作品群を残し、早逝した天才・殊能将之。殊能さんのtwitterアカウントは、現在もそのままになっている。最後のツイートは「んじゃまた」。もっと読みたかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 殊能将之
感想投稿日 : 2016年2月19日
読了日 : 2016年2月19日
本棚登録日 : 2016年2月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする