二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)

3.73
  • (40)
  • (69)
  • (60)
  • (10)
  • (3)
本棚登録 : 454
レビュー : 70
著者 :
takemogさん  未設定  読み終わった 

図書館で借出。

日雇い労働で得た金はその日のうちに遊興で消尽し、家賃は何ヶ月も滞納、それを詰られれば心中で呪詛の言葉を吐き、シロウトの彼女ができるや練習台になるとほくそ笑み、金の無心に訪れた実家で母の財布から金を引き抜く―

ごくごく単純に何の工夫もなく言ってしまえば、クズである。

しかしこのクズ、案外と「イケるクズ」なのだ。
貫多が抱く憎悪も呪詛も絶望も真実ロクでもないのだけれど、読者の多くは「そういうのあるな~」と妙に共感してしまうところがあるはず。
彼の妙に時代がかった口調やムチャクチャな理屈には、思わず笑ってしまうところもあった。

作者の西村賢太自身がモデルであろう(「自分のことしか書けない」と言うだけに、「あろう」どころかそのものズバリだと思うが)北町貫多は逆恨みの権化のような男だが、心に抱く悪意も殺意も実行するだけの度胸はない。
言うなれば「草食系クズ」である。

どこか可愛げのあるクズの恨み帳のような小説である一方、アウトローが世に唾して生きる小説っぽくも読めるのだが、そこに救いはない。
「わかっちゃいるけどやめられない」式のダメ人間たる貫多だが、彼が「やり直す」ためのよすがとしているのは、唯一「若さ」しかない。
しくじるたびに自己嫌悪や後悔に悶える貫多は、名前に反して何一つ“貫けて”はいない。
作者が私淑する藤澤清造の作品に出会う以前の、10代の頃の話が主であるため、まだ「西村賢太」という人間の軸ができていないのが、そんな印象を与えるのかもしれない。

ところで、この作家はネーミングのセンスがいい。
本人の名前の読みを少しずらした「北町貫多」のやっつけ感も好きだが、作品名がいい。
この短編集に収録されているのは、「貧窶の沼」「春は青いバスに乗って」「潰走」「腋臭風呂」の4編。
これら恥辱にまみれた日々のことを書いた作品集のタイトルが、『二度はゆけぬ町の地図』。
うーむ。いい。

レビュー投稿日
2013年9月9日
読了日
2013年9月9日
本棚登録日
2013年9月9日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『二度はゆけぬ町の地図 (角川文庫)』のレビューをもっとみる

ツイートする