古本で購入。
アヘン戦争は「西からの衝撃」として東アジアの近代史をひらいた重大な歴史的事件である―
この前提の下、その衝撃の状況を捉え、西に染められる以前の前近代の東アジアの様相を再現すべく書かれたのが本書だ。
康熙・雍正・乾隆三代の盛時を過ぎ、傾斜期の衰世となった道光帝時代の雰囲気から筆を起こし、アヘンの蔓延と銀の流出、清の対外貿易の仕組み、アヘン厳禁論と弛禁論の論争というように、アヘンをめぐる当時の社会の動きなどが描かれている。
そして林則徐によって禁絶策が施行され、有名なアヘンの没収と処分が行われる。清を侮りきったイギリスとの緊張の高まり、ついに放たれる砲火と清軍の惨敗。林則徐は責任を押し付けられて左遷され、屈辱的な講和条約をもってひとまず幕が下ろされた。
陳舜臣は、こうした実録的・概説的な作品を書かせると抜群におもしろい。
彼の小説は起伏が乏しく地味な感じになりがちだけれど、この手のものを小説家の腕で書き上げると生き生きとした歴史として立ち上ってくるから不思議だ。
個人的に、陳舜臣の最高傑作は『小説 十八史略』だと思っている。これは元代の歴史読み物『十八史略』を小説的に味付けしたもの(要は別モノ)だが、南宋滅亡までの流れを知ることのできる一種の「概説書」。これがまたおもしろい。併せて『中国の歴史』もオススメしたい。
林則徐というアヘン戦争の英雄が登場するものの、本書の主人公は彼ではない。
ここで著者が描き出したのは、大雑把に言えば19世紀半ばの中国、ひいては東アジアの「時勢」とでも言えるもの。当時の雰囲気を掴むのに適した本としてオススメ。
- 感想投稿日 : 2013年8月31日
- 読了日 : 2013年8月31日
- 本棚登録日 : 2013年8月31日
みんなの感想をみる