オープンソースで語れる範囲でシギントについて読める日本語の本ではかなり優良なのではないかと思う。インテリジェンスの実務に関わり今は研究者である2人の対談形式。2013年にスノーデンが暴露してくれたおかげで、実務に携わっている人間が守秘義務に違反せずに語れる内容が増えたのはありがたいことだ。
個人的には日本も反撃能力を持つとなって、ターゲティングをどうするかという必要性が生まれたので、今後もインテリジェンス、特にシギントの分野については関心を高めていくのではないかと漠然と期待しているが、まずはアメリカのインテリジェンスシステムを活用すべしと。NSAのSはSecurityとなっているが、実は米軍ではSIGINTを意味している。シギントの情報プロダクトはシングルソースインテリジェンスで、オールソースの素材情報ではなく、速報性に優れた情報があったり、秘密区分もヒューミントやイミントが極秘(SECRET)なのにシギントは機密(TOP SECRET)であったり。
この本で新しく知ったのはマシント(Measurement and Signature Intelligence)で、計測・痕跡情報と呼ばれるもので、対象が発するもの全てという。例として海自の対潜哨戒機による情報収集を挙げているが、だったらシギントってこれのサブカテゴリなんじゃないの?と疑問に思う。防衛省情報本部はバトルサポートをするための機関ではない。さらに陸海空の統合組織ができているのか怪しい。シギントは専門性が著しく高く、人事管理で特段の考慮が必要。
ファイブアイズは通称でUKUSA(ユクサ)が正式。アメリカにとってのメリットは情報収集の拠点を世界中に確保できること。米英の特別な関係とはインテリジェンス同盟によって結ばれた利害関係。多くのインテリジェンスを共有しているから国際情勢への認識が似てくる。軍の情報ニーズと国家の情報ニーズが異なるため、NSAは国防総省内に置かれているが統合参謀本部議長の指揮命令系統からは外れている。911などインテリジェンスの失敗が明確になると徹底的に原因究明して国会議員主導で大胆な組織改革ができるアメリカ。
北朝鮮による拉致は、日本の各省庁の横串が通っていたら被害が拡大しなかった。日本もアメリカのインテリジェンス体制を真似るべきで、日本だけがやっていないことが多々ある。違法じゃないのかとか考えるのは日本人だけで、インテリジェンスは法的根拠云々関係なく何でもありでやるのが当たり前。今はシギントの黄金時代で各国もここから宝を掘り出そうとしているが一方で日本はという懸念。
イギリスの首相がサミットで動きの予定を変更して大使館に寄るようにしていたのは、自分が生に近いインテリジェンスに触れていてそのエグさを理解しているからという説明。オンラインでもポルノサイトによる誘導などのハニートラップがある。
アメリカは北朝鮮のハッキング部隊解明に取り組み始めた時に韓国をハッキングし、韓国がアメリカにハッキングを試みていることもわかって韓国への関心を高めたとか。
シギントがインテリジェンスの皇帝となっている現代において、日本がシギント能力を高めていくための提言として、アメリカやイギリスから学んで国家シギント機関を作ること、幹部の人事権は首相が握ること、その下の技術者集団は高い専門性を有していること、内閣情報官が予算を計上すること、内閣情報官が任務付与と情報配布の権限を握ることを挙げている。
- 感想投稿日 : 2024年12月16日
- 読了日 : 2024年12月16日
- 本棚登録日 : 2024年12月16日
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