欧州解体

  • 東洋経済新報社 (2015年8月28日発売)
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【論旨】
★EUは関税同盟であり、政治同盟。投票で選ばれるわけでもないEU主導の政治は主権者不在の広域政治。政治単位は小さい方が良い。現状とそぐわない決定ばかり成されてきた。
★一律の労働法導入は間違いの元。競争力低下を招いた。
★関税同盟により域内貿易を守って競争力の低下を招き、域外の新興国への対応が遅れた。結果として全体の市場能力を低下させた。経済力低下により赤字国家の救済が難しい。
★移民問題が広がったのも、人の移動を自由に許しているせい。移民自体は×でないが、大量移民は問題だ。
★ユーロ導入の失敗。為替調整が出来ない。
★英国は他にも貿易同盟に入れるし組める可能性(英連邦)があるのだから、EUから離脱するべき。
p116『直接的には、EUは主として5つの領域を通じ、域内の経済的パフォーマンスに影響を及ぼしてきた。すなわち「貿易」「資本と人の移動」「労働法」「競争」「多額の金を集め使うこと」である。EUが経済的に成功していないのは、おそらくこれら5つの領域で良い仕事が出来ていないから』
P374『人々はコンセンサスに飲み込まれることがある。コンセンサスはそれ自体が命を持ち、ひとたび定着すると中々揺るがない。人々は自分が信じたいものを信じてしまいがち』

・EUの起源は戦争を避ける目的があった。欧州内戦争を二度と起さないように。米ソへの対抗措置でもあった。
・しかし急速なグローバル化、アジア新興国の台頭に対する施策は無かった。競争力の低下、経済成長率の鈍化で後れを取るようになった。
・関税撤廃のせいで、域内輸出国は良いが、輸入国はどんどん生産性が落ちる。保護されすぎて競争力が低下。
・労働力、人民の自由移動により失業率の増加、移民問題が膨れあがる。
・各国経済政策への干渉。
・民主主義の欠如:域内政策を決めるのはEUトップであるのにその人物を民衆は選べない。選挙がない。憲法で縛られてもいない。莫大な報酬を搾り取られる。
・各国政策への干渉のため、労働法による労働者保護が篤すぎて非現実的。よって企業の競争力、生産性の低下を招いた。
・単一貨幣ユーロでは、為替調整が出来ない。
・EUは欠陥だらけだ。存続には改革が不可欠。代わるものとしてNAFTAが参考になる。

【感想】
日本語訳は読みやすい。専門知識はなくてもとっかかりやすいが、どんどん冗長になっていく。本当は本書の1/3程度の分量で伝えられるところを、ぐりぐり書きすぎ。
集中的に第1部(第1章、2章)と第2部の第4章だけ読めば、充分だ。あとは著者の推論が展開されている。
全体を通しで読むにしても、2割読み(ほぼめくるだけで、気になった箇所に付箋を貼りつける。あとは付箋の場所だけ精読)で充分だと思う。

EUが何故窮地に陥っているのか? 謎を解く鍵は一応書いてある。自由貿易協定に留めておくのが市場に良いんだ、という主張。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治経済
感想投稿日 : 2016年7月3日
読了日 : 2016年7月3日
本棚登録日 : 2016年7月3日

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