招かれた天敵――生物多様性が生んだ夢と罠

著者 :
  • みすず書房 (2023年3月14日発売)
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感想 : 14
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様々な理由で「人間の手によって」世界中を行き来させられてきた生物たち。主に農作物を害虫から守る「生物的防除」をテーマに、移入種たちがどのように広がり、成功を納め、あるいは失敗し、現代に至ったのかをたどる。

生物たちは自己の遺伝子を地理的に拡散する宿命を帯びています。ですから広がっていくわけですが、そこに人為的な要素があると移入種と定義されます。本書はこの移入種が発生する経緯と経過と結果についてまとめたもので、大変に興味深い内容でした。
まず生物的防除が19世紀には始まっていたことはけっこう驚きでしたし、そこに至る思想的な変遷も(宗教が絡んでいたりして)驚くべきものでした。移入に失敗したケースの多くは科学者が「慎重にすべき」とした移入を有無を言わさずやってしまう政治的な圧力だったりするのもとてもやな感じで、進歩しないヒトの社会を痛感したりしました。また、例えばアメリカで大被害をもたらした日本のマメコガネ(Japanese Beatle)が第二次大戦の際に日本憎悪のためのシンボルとしても用いられるなど、移入種による災厄が差別やイデオロギーに利用されていたというのも注目したいところです。
最後に著者本人が関わった小笠原の生態系保全のための移入種対策については迫真のドキュメントで、人間の罪深さを噛み締めるエピソードになっていました。
要所要所では非常に重要な指摘や提言があるのですが、何しろ語られるジャンルが広範なのでどれもこれも興味があり、ノートとか取りながら読まないと何が書いてあったか忘れがちになってしまうところは注意が必要です。

日本を含めて世界中の多くの地域で地域の生態系に影響を与える移入種問題は頭の痛い課題となっていますが、多くの場合は解決に至る道筋すらつけられないのが現状です。こうした現状の何が問題なのかについて、非常に中立的に論じているのも印象的で、例えば化学農薬(化学的防除)を否定せずに総合的な観点から対策を提言するあたりなどは大変に同意できました。
もうひとつ、こうした提言も含む科学的な問題というのは専門書に近く、読みづらいのが定番ですが、この本については、たとえばある科学者が世界中を新婚旅行ついでに調査してまわったリア充エピソードが長々と語られてなんじゃこりゃ、と思っていたところ、その後の展開で見事に回収されたりとか、たくさんの登場人物が出てくるけどキーマンを絞っていて科学者の系譜がわかりやすかったりとか、人柄まで感じられる人物描写だったりストーリーテーリングが上手だったりして読みやすい本になっているのが素晴らしいところだと思いました。(とはいえ、生態学が好きじゃないと読みこなすのは大変かも)。
移入種や生態学に興味のある方はぜひご一読ください。レイチェルカーソンの名著、「沈黙の春」と一緒にどうぞ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2024年1月12日
読了日 : 2024年2月15日
本棚登録日 : 2023年11月22日

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