f植物園の巣穴 (朝日文庫)

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著者 :
tamazusa_doさん  未設定  読み終わった 

語り手の"私"佐田豊彦は、f植物園の職員。
水生植物園を担当しており、その水辺を「隠り江(こもりえ)」と秘かに呼んで、理想の姿に育てることに情熱を傾けている。
やがて、日常が不思議な出来事に彩られ始める。
思い返せば…
植物園の大木にできたおおきな"うろ"を覗きこんだ時に、落ちた?のかもしれないのだが…

梨木さんの作品に、水辺は多く出てくる。
すべての命は水の中から生まれた…ということと関係しているのかもしれない。
穴に落ちてからの不思議の連続というのは、不思議の国のアリスを連想させる。
和風だから、遠野物語や、宮沢賢治の世界に近いのかも。
豊彦の時代は、明治・大正…新しくても昭和初期頃だろう。
現代よりも不思議は日常の中に混在していたかもしれず、怪異は恐ろしいと言うよりは、不条理と、哀しさも美しさも伴っている。

なかなか醒めない夢のような豊彦の旅路は、無意識のうちに心の隅に追いやった気がかりを取り出して、もういちどあるべきところに納めるための旅だったのかもしれない。
言ってみれば、自分の心を「治水」したのだ。
悲しい記憶と悔恨を克服し、新しい水をさらさらと流す。
そこには健やかな命が生まれる。

『家守綺譚 』『冬虫夏草』と同じ傾向の作品。

レビュー投稿日
2019年8月10日
読了日
2019年8月10日
本棚登録日
2019年8月10日
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