自分をいかして生きる

著者 :
  • バジリコ (2009年9月17日発売)
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本棚登録 : 655
感想 : 89
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名著『自分の仕事をつくる』から6年後の続編。西村さんは前著の「補稿」と位置づけているが、今回は「いい仕事」をしている人たちの訪問記録ではなく、そこから派生した働き方や生き方、人間らしい在り方を深掘りする論考集となっている。

といっても、堅苦しい本ではない。時に立ち止まり、逡巡しながら、一歩ずつ歩みを進めていくその語り口は、目の前に西村さんがいて、ボクに直接語りかけてくれているような安心感がある。「顔の見える仕事(相手の存在を感じられる仕事)」というのは、こういうもののことを言うのだろう。

たとえば、西村さんはこんなことをさらっと言う。

〈わたしたちは仕事やつくったモノを通じて、その先にいる人々に触れたり出会っていると思うのだけれど…〉

〈調子よく相槌を打っているけれど、ほとんど人の話を聴いていないような人や、手抜きの仕事におぼえる腹立たしさ、つまらなさは、質の良し悪し以前に、そこに相手が「いる」ことが感じられない不満足感から来るのではないか〉

〈…それらが重ねられれば重ねられるほどわたしたちの心はシラケてゆく気がする。「いない」のに「いる」ふりをした仕事に触れつづけることによって〉

〈「わたしがいて、あなたがいる」ということ〉

引用しはじめるとキリがないので、これくらいにとどめておくが、西村さんの言葉一つひとつがいまのボクの気持ちにフィットする。以前から心のどこかに引っかかっていた疑問が氷解していく感じ。そして、それはふたたび歩みをはじめるボクの背中をそっと押してくれる。

今年の4月に文庫で前著を読んでから、ずっと気になっていたのに読まなかったのは、単純に読むのがもったいなかったから。そして、その期待はまったく裏切られなかった。むしろ、いっぱいおつりをもらって、ポケットに突っ込むだけで精一杯。その意味は、これからじっくり考えていきたいと思う。

年に数冊、線やメモ書きで真っ赤になる本があるけれど、西村さんの2冊は今年の汚れ度合いトップ2を独占した。ボクがいまやっている仕事、これからやる仕事について、こんなに考えさせてくれる本はない。

漠然といまの自分(あるいは将来)に不安を感じている人、生きにくさを感じている人、働く意味を見失いそうな人にこそ読んでほしい。おすすめ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: アート・映画・ゲーム
感想投稿日 : 2010年10月18日
読了日 : 2010年10月18日
本棚登録日 : 2010年10月18日

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