ゆとり教育から個性浪費社会へ

著者 :
  • 筑摩書房 (2004年1月10日発売)
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本棚登録 : 87
感想 : 8

2007/6/6

これは良かった

ゆとり教育批判は感情論的になったり,単純につめこみ回帰な閉じた議論に終始しがちですが,社会経済システム,
人格システム等諸システムとの学校教育の相互関連に着目するという岩木氏は,まさに日米関係や,欧米の階級構造の歴史,
カルチャー等との関係性から所謂,文科省的な意味での「ゆとり教育」への流れの不合理を指摘しています.


なんとも,歴史観もしっかりしていて,その上から偏りすぎない冷静な議論がいい.良質な学者らしく,決定的な「判断」
までは持ち込んでいない感じがまたよい.
僕の勝手な解釈では,時代の流れは,

①右派的な方向から新自由主義的な競争原理を持ち込んだ学校改革,
②左派的な方向からは地域コミュニティや総合学習を組み込んだ学校改革

という二つの流れがあるように思う.

僕は基本的には後者を押すが,その前提としては現場に自由裁量を与える事が必須.権限責任一致の原則から,
競争原理は自然と導入されざるを得ない.

しかし,②の目標は教育そのものであり,短期的な試験の成績という評価軸ではかれるものではない.

(個人的にはそれではかっても中長期的には単純な詰め込み教育の上を行けるとは思うが.堀川高校がその例のよう)

競争原理が,企業において多くが失敗した成果主義の二の徹を踏まなければ良いと思う.
競争原理はシステムデザイン的には,環境設計として評価関数を設計することで自律システムとしての学校の適応を促すものだが.
その評価関数の設計は,システム自体の直接の設計に負けず劣らず難しい.
競争原理の導入というのは,それを宣言しただけでは何にもならず,
評価関数の設計でもって初めて意味をなす事をキモに銘じるべきだろう.


教育(特に義務教育)を個人主義,個人に閉じた「価値」の議論ですますほど現実感の無い話はないよね.
と,おもう・・・.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2014年12月31日
読了日 : 2007年6月6日
本棚登録日 : 2014年12月31日

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