- 先生と僕 夏目漱石を囲む人々 作家篇 (河出文庫)
- 香日ゆら
- 河出書房新社 / 2018年12月6日発売
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夏目漱石が文の大家となり門下生が集まったあたりから最期に至るまでを、読みやすい漫画と濃密な解説で紹介している一冊。
4コマ漫画で面白おかしく夏目漱石の半生を辿ることができます。
漱石は慢性的に癇癪と胃病を患っていました。
癇癪を起こした際は“頭の調子が悪い”として自室に籠もったり、胃病が始まると床に伏せ、その度に鏡子夫人や周りの人々は本人と同じかそれ以上に苦労したのだろうと感じました。
しかしそれを差し引いても余りある能力と人徳が漱石にはあったのです。
本書は主に人との交流に焦点が当てられ、当時の出版界や小説家の志向がわかりやすく描かれています。
漫画だからと侮るなかれ、極めて情報量の多い内容でありながら読みやすい良書です。
2025年1月18日
- カリ・モーラ (新潮文庫)
- トマス・ハリス
- 新潮社 / 2019年7月26日発売
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『レクター』シリーズの著者トマス・ハリスによる新作『カリ・モーラ』です。
食人の精神科医ハンニバル・レクターが登場する世界観とは一線を画し、少し落ち着いた猟奇事件が描かれています。
獣医を夢見るコロンビア移民女性カリ・モーラの元に、全身無毛の臓器密売人のハンス・ペーター・シュナイダーが現れます。
カリ・モーラ自身は凄惨な人生を送ってきた25歳ですが、周りに集う人間たちも只者ではありません。
熟練の殺し屋が密集している状態が続き、先ほどまで生きていた者が次のページでは死んでいる…という状況にも納得ができてしまいます。
美しき、そして哀しきカリ・モーラに平穏は訪れるのでしょうか…。
2025年1月11日
- MAD 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 大鳥雄介
- 集英社 / 2024年11月1日発売
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凶暴なエイリアンの侵略により人類が激減したポストアポカリプス世界を描く漫画の第2巻です。
主人公ジョンを中心に物語は進みます。
流浪の後に与した集団はエイリアンに殺戮され、生き残ったジョンは謎のコミュニティに保護されることに。
そこには軍隊的な秩序があり、食事や医療から文化的な生活を営んでいるように見えます。
ジョンを“家族”として受け入れるコミュニティですが、ここで営まれているのは文化的な生活だけではなく…。
非人道的な組織による抑圧が描かれますが、この淡々としたタッチが素晴らしい。
3巻にも期待します。
2024年12月31日
- MAD 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
- 大鳥雄介
- 集英社 / 2024年8月2日発売
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凶暴なエイリアンの侵略により人類が激減したポストアポカリプス世界を描く漫画の第1巻です。
主人公ジョンを中心に物語は進みます。
死と隣り合わせの極限状態の中、人々は今を生きるために奮闘しています。
ジョンは妹(少々訳ありな存在)と共に流浪の生活をしてきた青年で、運良く出会った集団に組み込まれます。
この集団は安全と謳われるコミュニティへ向かう途中でしたが、それは罠の可能性が高いものでした。
結果としてエイリアンに襲われた挙げ句に集団は殺戮され、生き残ったジョンは謎のコミュニティに保護されるのですが…。
淡々と世紀末が描かれている点が私の好みでした。
2巻にも期待します。
2024年12月31日
- 芸亭院―日本最初の公開図書館 (1962年)
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奈良時代の貴族であり文人でもあった石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)が平城京に築いた日本最古の公開図書館=芸亭(うんてい)について研究している一冊。
江戸時代になるまで顧みられず歴史に埋もれてしまった芸亭ですが、唐から齎された知識や情報への注目が集まったことで研究が始まったようです。
本書は芸亭の草創、石上一族、芸亭が置かれる阿閦寺(あしゅくじ)と阿閦仏像、などの解説が続き結論へ至ります。
大正7年の第13回日本図書館協会大会で「芸亭院と石上宅嗣」という講演が行われたことを契機に、芸亭研究が再燃することになりました。
芸亭に所蔵されていた資料の現代語訳と碩学による研究を合わせて、芸亭と石上宅嗣、当時の仏教や儒教文化についての纏めと考察がされています。
貴族が貴賤を問わず学問を広めるために文庫を公開することは、当時では異常であり英断でもありました。
自邸を阿閦寺という寺院へ改装しその一画に公開文庫の芸亭を設置した石上宅嗣とは何者なのか…、お察しの通り難い内容ですが当たり前のように読書できる環境が如何に恵まれているのかを考えさせられました。
2024年12月30日
- 銀河英雄伝説 2 野望篇 (Blade Comics)
- 田中芳樹
- マッグガーデン / 2018年5月19日発売
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銀河英雄伝説の2018年新装版、2巻の野望篇です。
特別企画として著者インタビューも収録されています。
野望篇は“帝国領進攻作戦”などの激戦が終わり、内政と内乱の時代に生きる人々が描かれる一冊です。
ラインハルトは銀河帝国の腐敗した君主制を正すためクーデターを起こし、ヤンは自由惑星同盟内で勃発した救国軍事会議によるクーデターを抑えるために奮闘します。
自由惑星同盟の反乱軍にはフレデリカ・グリーンヒルの父ドワイトがおり、それぞれの職務を全うすることで心身共に激突します。
しかし銀河帝国と自由惑星同盟で起きたクーデターは同時期に発生するよう仕向けられたものであり、当事者が考えもしない展開へ進んでいくのです。
そんな時世で名を聞くことの増える“地球教”の暗躍、フェザーン自治領の不気味な動き、陰謀渦巻く宇宙の今後が気になります。
さて、本書では様々な登場人物が自らの進退を決断し、そして多くが亡くなってしまう展開を迎えます。
それ故に沢山の名言が残されたと言えますが、特に印象に残ったヤンが内乱鎮圧前に司令官として発したセリフを引用します。
“もうすぐ戦いがはじまる。ろくでもない戦いだが、それだけに勝たなくては意味がない。勝つための計算はしてあるから、無理をせず、気楽にやってくれ。かかっているものは、たかだか国家の存亡だ。個人の自由と権利にくらべれば、たいした価値のあるものじゃない……それでは、みんな、そろそろはじめるとしようか”
次巻にも期待します。
2024年12月29日
- 読書効果の科学 読書の“穏やかな”力を活かす3原則
- 猪原敬介
- 京都大学学術出版会 / 2024年10月15日発売
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読書活動が人間にどう作用するかの研究をまとめて考察している一冊。
そもそも読書効果が存在するかを様々な研究と実験から紐解き、効果の本質へ迫ります。
読書が言葉(語彙や読解)・人格(志向性)・精神的健康・身体的健康・学カ・仕事(収入)などにどの程度の効果があるかを科学的に解説しています。
実験結果の検証や対照の部分は難い内容となるので根気が要りますが、節目に用意される要約が理解を助けます。
結果として
・読書は語彙や読解等について一定の良い効果があるが、読みすぎは弊害を生む。1日30分~1時間が効果的である。
・読書が合わない人間もいて、介入や指導をしてもほぼ無意味である。
ということが判明しています。
読みすぎの弊害は読書時間が長いことで睡眠時間等が短くなり、全体としてのパフォーマンスが落ちることが実験結果から推測されています。
規則正しい生活の中に一定時間の読書が加わることが良いようです。
読書が合わない人間に対しては読書を無理強いしてもほぼ無意味であることが判明しており、こういった個性の持ち主には音響や映像等のメディアが適しているらしいことが推測されます。
何が何でも活字を読みなさい、という指導法は科学的に考えて今後は改めていく必要がありそうです。
2024年12月19日
ヨーロッパの図書館を長年調査している著者による、ラトヴィアにおける図書館事情を紹介する一冊。
これまでにスカンジナビア各国の図書館についての本を出されている著者が、今回はバルト三国の一つラトヴィアに焦点を当てます。
ラトヴィアはロシアとソ連に長く占領された歴史があり、その間ラトヴィア語は使用禁止という厳しい経験をしました。
しかし独立後には様々な支援を受けながらラトヴィア語を公用語に定め、図書館はラトヴィア語のアイデンティティを守る砦となっていきます。
新国立図書館へ資料を搬入する際に人から人へ手渡しして運び込む“人の鎖”が世界的なニュースとなり、ラトヴィアの復興と国民の知的な側面が知れ渡りました。
戦後の短期間で急速に変化した国としては日本も同じですが、自国の文化の保全を第一に掲げたラトヴィアと経済復興一択であった日本とでは見ていた未来の方向が違っていたのでしょう。
それ故に今の図書館の姿にも違いがあり、そこから学べることが多いなと感じました。
2024年12月13日
- 図書館ウォーカー2 旅のついでに図書館へ タビノツイデニトショカンヘ
- オラシオ
- 日外アソシエーツ / 2024年5月24日発売
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元公共図書館員の著者による、図書館を中心に全国を巡る旅行記の第2巻です。
陸奥新報掲載の記事から61点が加筆修正された一冊。
旅行中の訪問地に図書館を加えるスタイルで、図書館に到着するまでの過程と建物の外観や立地を主に楽しんでいます。
そのため万が一休館であっても、それはそれで良しとしています。
写真が多めで、目的地に至るまでに広がる風景が想像できました。
1巻と同様に幾つかの図書館には私も足を運んだことがあり、別の視点と感性による発見が面白いです。
2024年12月10日
国学・文献学の大家である本居宣長よる古今集の江戸期言葉訳の第2巻です。
江戸時代の口語訳となりますが、現代人が読んでも理解できるものが沢山あることに驚きました。
古今集を読んだ江戸時代の人はそう感じるのか、一方現代人と一致した感覚もあるのか、と先達へ親しみを持ちながら読み進めました。
古今集巻十一から二十までに加え、解説を収録しています。
司書業務における調査で読了並びに使用しました。
歌そのものを探したり意味を調べるのに請け合いで、大変見やすく便利でした。
2024年12月7日
国学・文献学の大家である本居宣長よる古今集の江戸期言葉訳の第1巻です。
江戸時代の口語訳となりますが、現代人が読んでも理解できるものが沢山あることに驚きました。
古今集を読んだ江戸時代の人はそう感じるのか、一方現代人と一致した感覚もあるのか、と先達へ親しみを持ちながら読み進めました。
古今集巻一から十までを収録しています。
司書業務における調査で読了並びに使用しました。
歌そのものを探したり意味を調べるのに請け合いで、大変見やすく便利でした。
2024年12月7日
- 記号創発システム論 来るべきAI共生社会の「意味」理解にむけて (ワードマップ)
- 谷口忠大
- 新曜社 / 2024年9月3日発売
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記号(言語)の存在意義の考察から始まり、学習して成長する我々自身やAI・ロボティクスについて掘り下げている一冊。
AIとの共生社会という将来的課題を見据えて、概念を伝えるために必須となる記号と言語を探求していきます。
人工知能、ネオ・サイバネティクス、プラグマティズム、現象学、発達心理学、ロボティクス、自由エネルギー原理、エナクティヴィズム、などの各分野の研究者が執筆しています。
私たちは他者へ何かを伝える際に、頭の中に描かれている概念そのものをポンっと出して手渡すことはできません。
ですので、基本的には概念を記号と言語に変換して言葉にしたり文章として紡ぐ必要があるわけです。
そしてそれは人類が作り出そうとしている高度なAIやロボットにとっても同様であり、彼らは映像や音響についても人間以上に記号として捉えています。
記号や言語の持つ神秘性と力を改めて考えさせられました。
2024年12月1日
- ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー
- 大林正智
- 郵研社 / 2024年8月8日発売
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『ROCK司書の図書館ライブ』著者によるHP掲載記事と書き下ろしが収録された一冊。
日常業務や展示に奮闘する図書館と司書の物語を中心に、フィクションとエッセイを織り交ぜた短編が続きます。
この軽い(チャラい?)筆致が読みやすく、司書の飾らない本質が描かれているように感じられました。
“気持ちを揺り動かされるような感情の欠片を集めた図書館”のセンチメンタル・ライブラリーを主題に、図書館に行ってみようと思えるお話が散りばめられていました。
書き下ろしの『Extra disc』には豊橋市まちなか図書館の誕生秘話が綴られており、「普通じゃない司書」として呼ばれたROCK司書の仕事ぶりが垣間見れます。
2024年11月26日
- 銀河英雄伝説 1 黎明篇 (Blade Comics)
- 田中芳樹
- マッグガーデン / 2018年4月21日発売
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銀河英雄伝説、2018年新装版です。
特別企画として著者インタビューも収録されています。
黎明篇には“アスターテ会戦”“イゼルローン攻略”“帝国領進攻作戦”などの激戦が続く一冊です。
太陽系第三惑星地球からアルデバラン系第二惑星テオリアへ拠点を移した人類は、宇宙の深奥へ技術力を頼りに進みます。
しかし技術の発展は鈍り、民主的共和政治は自浄作用を失い頽廃し、銀河連邦は“中世的停滞”を招きます。
その後紆余曲折あり専制政治と民主政治の国家に分裂し、戦争の時代へ突入していくのです。
前者の銀河帝国に生まれたラインハルト・フォン・ローエングラムと後者の自由惑星同盟に生まれたヤン・ウェンリーは、各々の確固たる意志を持ちつつも数奇な巡り合わせに翻弄されていきます。
次巻にも期待します。
2024年11月26日
北欧4カ国の図書館を建築の立ち位置から紹介する一冊。
デンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーは図書館界において先進国であり、日本が手本にするべき取り組みが数多くあります。
大きな声での話し合いが可能であったりビデオゲームの提供などの新しいサービスが広がる北欧の図書館ですが、古くからある図書館や旧館では静寂を重んじたりゲームはあってもボードゲームに限ったりとその場に合った選択をしているのがわかります。
右に倣えではなく、図書館員と利用者がよく話し合ってそれぞれの図書館の色を大事にしていることが文章と写真から伝わってきました。
2024年11月15日
- フェイスゼロ とある殺人の行動心理記録 (メディアワークス文庫)
- 青木杏樹
- KADOKAWA / 2019年12月25日発売
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『ヘルハウンド』シリーズの前日譚となるミステリー小説です。
青木杏樹先生ご本人から押し付けられ…いえ、ご恵贈いただきました(笑)
ありがとうございました!
犯罪心理学准教授の犬飼秀樹の師となる山田誉、副検事の諭吉龍一郎の父となる諭吉藤吉郎、2人が出会い事件の解決に奔走する過去が描かれます。
山田誉は飄々としていて神出鬼没な心理学者、諭吉藤吉郎は将来を約束された名門の検事です。
『序章』『顔の無い男』『共闘ークロスアイズー』『正義の代償』『終章』が収録されています。
物語は警視正の津久田五木の暗殺から始まります。
山田と諭吉だけでなく様々な人間が複雑に絡み合い、深淵な謎へ読者を誘います。
そして徐々に明らかとなる暗殺事件へ至るまでの経緯と真相、誰も信用できず味方はいるのかと不安にさせられる展開に興奮しました。
それにしても…山田誉の若い頃がこんなヤンチャだったとは、ギャップとは素晴らしいですね。
『ヘルハウンド』シリーズと同様に、今後の展開が気になるところです。
2024年11月15日
- リサーチのはじめかた 「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法 (単行本)
- トーマス・S・マラニー
- 筑摩書房 / 2023年9月1日発売
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研究したいのに何をどうしたら良いかがわからない方向けの入門書です。
研究課題の見つけ方から進め方、発表の仕方などが紹介されています。
説明に冗長な点がありますが、肩の力を抜いて取り組んでもらえるように著者が配慮しているのではとも思えます。
箇条書きではなく読み物としての構成なので、ゆっくり研究活動を行っていきたい方に適した一冊。
2024年11月10日
- 世界の大学図書館 知の宝庫を訪ねて
- 立田慶裕
- 明石書店 / 2024年6月27日発売
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イギリスとアメリカの大学図書館に焦点を絞り、これまでとこれからの役割と課題を考察している一冊。
各地の図書館が行うことのできる精一杯のサービスを、その場に適した形で利用者へ提供している姿は賞賛に値します。
淡々と事実を並べるレポートのような筆致と難い内容のため、読者は司書や図書館関係者に限られるのではと感じました。
概要、戦略、特色の順に解説されています。
2024年11月4日
- プロの検索テクニック 検索技術者検定 準2級・2級 公式推奨参考書
- 一般社団法人情報科学技術協会
- 樹村房 / 2024年4月2日発売
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検索技術者検定準2・2級を想定した公式の参考書、第3版です。
情報検索手法、インフォプロ、データベース、専門分野別の情報資源、情報の管理・分析、セキュリティについて解説されています。
特に専門分野別の情報資源については知らない国内外の商用データベースが紹介されており参考になりました。
商用データベースは個人利用であっても無料ではなく契約が必要です。
全国の公共図書館でも商用データベースを利用できますが、契約しているものに差がありますので閲覧を希望するものが決まっている場合は注意しましょう。
検索技術者に興味を持ったわけではなく手に取りましたが…面白そうですね。
2024年10月30日
- 高田馬場アンダーグラウンド
- 本橋信宏
- 駒草出版 / 2019年3月14日発売
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軍都の時代からこれまでの高田馬場の深みを、著者の体験と取材を中心に紹介している一冊。
ビッグボックスのある町、学府が密集する町、神社や仏閣の町、鉄腕アトムの町、独特な風俗の町…など、高田馬場への印象というものは十人十色と言えましょう。
戦争によって焼け野原となったこの場所は他の地域と同様に日本人の粘り強さによって復興を遂げるわけですが、そこまで広くない枠に様々なものを詰め込んだような街だなと読了後に感動しました。
色町については全く心得はないのですが、目白高級住宅街や大学や霊園などによって池袋と歌舞伎町からの猥雑な風俗熱をブロックした場所に栄えた高田馬場のそれが独自路線を行くことになった点に面白みを感じました。
解説している時代の焦点が絞られているため読者のどれ程が懐かしいと感じるか疑問ではありますが、書名の通り高田馬場のアングラな部分を楽しめること請け合いです。
著者の自伝的描写からは実体験に基づく当時の息遣いを感じることができました。
2024年10月29日
- 大雪海のカイナ ほしのけんじゃ
- 安藤裕章
- -
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文明が崩壊し“雪海”に覆われた惑星にて、“軌道樹”の上や根元で人々が暮らす世界を描くSFファンタジーの劇場版です。
Amazonプライムで視聴。
弐瓶勉原作なのでいきなり厳しい展開もあり得ると身構えていましたが、戦闘などはマイルドな表現でほっとできる展開が多く新鮮でした。
軌道樹の上の民カイナと根元にあるアトランド王国王女リリハや旧敵国指揮官アメロテなどの魅力的なキャラクターを中心に、水不足に喘ぐ世界を救うために巨大な軌道樹を探す旅が始まります。
しかし航海は困難を極めて様々な持ち物も失っていき…。
キーワードのように多用されていた“賢者”についてなどの謎は残っていますが…一つの物語として楽しめた一本です。
2024年10月27日
- 図書館の興亡 古代アレクサンドリアから現代まで
- マシューバトルズ
- 草思社 / 2004年11月1日発売
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西欧地域を中心とした図書館の興亡が綴られた一冊。
中東の古代図書館や西欧の図書館における時代ごとに異なる在り方が研究されています。
図書館は文化の殿堂として認識されてきましたが、現代では単純な娯楽施設の一つとして扱われていたり、増え続ける資料の保存スペースが無くなるというような問題を抱えています。
アメリカ議会図書館がバベルの図書館に一番近いものですが、それでも全人類の1方言で書かれたものを主に保存しているに過ぎず、ボルヘスの言う宇宙=情報の保管庫=図書館という箱物を我々は作ることができていません。
いずれの時代にしても図書館と司書の第一の使命は資料の保存と提供であり、それを未来永劫に渡り続けなければなりません。
情報が災害や焚書などにより喪失しやすい脆弱なものであるからこそ、やる価値がある仕事なのです。
デジタル化が進めばメタバース上にバベルの図書館を作り出すことはできるかもしれませんが、もし完成したとしても維持管理や提供には司書や技術者がいて、未来永劫に仕事をし続けるのだろうと思います。
2024年10月18日
- 海にしずんだクジラ
- メリッサ・スチュワート
- BL出版 / 2023年7月25日発売
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地球上で最も大きな動物のクジラが死んで海底へ沈んだ後の様子を描いた絵本です。
海底における普段の食事はマリンスノー(プランクトンの死骸)であり、多くの生物は常に空腹状態です。
そんな環境に大きな肉の塊であるクジラが降ってきたらどうなるのでしょうか。
簡潔明瞭な説明に加えて、眺めているだけでも感動できるほどの綺麗な絵が理解を助けます。
様々な生物が群がり、そして次の世代へ続いていく…食物連鎖がそこにあります。
骨になって終わりではなく、ゾンビワームと呼ばれるホネクイハナムシやバクテリアによりクジラの姿形は無くなり、何十年もかけて新しい生命へ変貌していくのです。
生きることも死ぬことも生物として美しいものだな、と思えた一冊。
2024年10月9日
紅茶についてのあれやこれやが可愛い絵と文章で紹介されている一冊。
紅茶が既に好きな人もまだよくわからない人も楽しめると思います。
紅茶の種類、カップの違い、色々な作り方、その他豆知識が散らされています。
読了後は敷居が低くなり、デイリーに紅茶を楽しめること請け合いです。
2024年10月4日