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2666
- ロベルト・ボラーニョ
- 白水社 / 2012年9月26日発売
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本の規模、構成やあらすじについては他の方の感想を参照のこと。純文学や文芸というものが作者の内面の発露であり、読者はそれを読み解くものだとすれば、それは現代美術にも通じるものがあるのだろう。少なくとも、読み解く/感じ取るスキルが必要だと思う。
2023年3月20日
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小説ダークソウル 弁明の仮面劇 DARK SOULS the novel :Masque of Vindication
- マイケル・A・スタックポール
- KADOKAWA / 2022年10月25日発売
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ゲームが原作とのことだが、未プレイ。死にゲー(死亡後の復活が世界観、システム的に取り入れられて、死んで覚えるが前提のゲーム)を小説化したもの。M.スタックポール著の紹介に惹かれ購入。
未プレイでも世界観はさほど苦労せず入れた。元がゲームということもあろうが、文字通り死んで覚える、死んで進めるあたりのゲームゲームしている設定/表現はちょっと興醒め。根幹に関わる部分だけにもうちょっとどうにかならなかったのか。
主人公は主役でなく、サポートに回る役だが、意外な展開が終盤に出てくる。最後展開/筋書きは悪くないが、尺が足りない気がする。
2023年3月9日
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スキタイの騎士
- フランティシェク・クプカ
- 風濤社 / 2014年3月1日発売
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チェコの文学者フランティシェク・クプカがナチス占領下のチェコにおいて、祖国の誇りを取り戻すべく書いた作品。カール大帝の頃から、第二次大戦までのチェコの各時代の歴史短編小説、といった感じのもの。とはいえ、非常に幻想的な作品があったり、日記小説風の作品があったりと、さまざまな趣向に富んでいる。チェコ史に疎く、フス戦争とオーストリア継承戦争ぐらいしか知らなかったため、すべての作品をより深く楽しめたわけではないが、単なる愛国小説ではなく自国の歴史を通じて人間を描こうとしていることがわかる良品集といえよう。
2023年2月27日
フィデル・カストロの評伝。上巻でキューバ革命をなし得て権力を握ったカストロがどのように元首として振る舞っていったかを描く。西側に対しての報道とは異なり、如何にキューバが経済的に困窮していたか、共産主義専制国家のご他聞に漏れず自由がなかったか、そしてカストロが闘争と革命狂い(ウォーモンガーならぬレボリューションモンガーとでも言うべきか)であったかが赤裸々に描かれる。また、国際関係の中でのカストロ(キューバにあらず)と西側文化人、東側各国、アメリカ、ヨーロッパなどがどのように振る舞っていたかについて、一側面からの実情を知る事ができるのは貴重だと思う。本書はカストロが亡くなる一年前の2015年で筆を置いているが、すでに引退気味であった時期なので、そこまでの違和感はない。キューバを知るための良書と言えよう。
2023年2月2日
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ドラゴンランス レイストリン戦記4 戦場の双子〈下〉
- マーガレット・ワイス
- KADOKAWA / 2022年12月1日発売
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レイストリン戦記第二巻。
いよいよ戦場に出るマジェーレ兄弟。
軍隊の本隊とは異なる行動をとるあたりがRPG的な演出だと思ったり。
キティアラの冒険も描かれるが、総じて皆若く、善良さや素直さがまだ幾許か残っている。
考えてみれば戦記の一巻より若いのだから。
2023年1月23日
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ドラゴンランス レイストリン戦記3 戦場の双子〈上〉
- マーガレット・ワイス
- KADOKAWA / 2022年12月1日発売
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レイストリン戦記の第二部。双子が傭兵として過ごした日々の詳細が語られる。軍隊に入隊した二人の生活は訓練の日々で、フルメタルジャケットを彷彿とさせる。
2023年1月17日
カストロの評伝。カストロ寄りの賛美本が多い中、外から見た貴重な伝記。しかしカストロのあまりの非道さに不愉快になる(勿論評伝としては優れている)。しかし、残念ながら誤字が散見されるのはいただけない。また、原著でもそうかもしれないが、プライベートとオフィシャルの使い分けで混在するならともかく、文章の中でファーストネームとラストネームを混在させるのはやめてほしい。
2023年1月9日
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民主主義のルールと精神――それはいかにして生き返るのか
- ヤン=ヴェルナー・ミュラー
- みすず書房 / 2022年8月17日発売
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民主主義について、人民(国民)、政党、メディアといった構成要素やその理念に沿った健全さを保つために必要なルールについて語っている。あくまで欧米風の民主主義について語っているため、中東など文化的に相容れない可能性のある環境について触れられてはいない。とはいえ、昨今、民主主義国家において権威主義がそれを打ち砕こうとする中、曲がりなりにも民主主義国家に住む者として学ぶに値する内容だと思う。もとから権威主義的な国家より、民主主義の中からそれを侵食しようとする権威主義のほうがより危険であろう。
2022年12月14日
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007 逆襲のトリガー
- アンソニー・ホロヴィッツ
- KADOKAWA / 2017年3月24日発売
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イアンフレミング財団公認の007の新作。イアンフレミングっぽい文体で、コテコテの007映画ばりの展開が繰り広げられる(ダニエル・クレイグよりはショーンコネリーっぽい)。Qのトンデモアイテムは出てこないが、娯楽映画を読む感覚が味わえる。
2022年11月17日
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撤退戦-戦史に学ぶ決断の時機と方策 (単行本)
- 齋藤達志
- 中央公論新社 / 2022年8月9日発売
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近現代の撤退戦を解説した書。
防衛畑の人の為、戦術的記述は専門的でわかりにくいところもあるが、要は負け戦においてどう判断するか、というのがポイント。筆者も後書きで書いているがトップから現場までが同じ認識を持つこと、失敗したときのオルタネートプランの準備、現状を正しく受け入れることなどの重要性が浮かび上がってくる。これはビジネスやシステム変更作業にも通じる。
2022年11月16日
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グレート・ギャツビー (角川文庫)
- フィツジェラルド
- KADOKAWA / 2022年6月10日発売
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舞台は狂乱の二十年代。東部の軽薄な人々と交際しながらそこに馴染めないギャツビーの人生を描く。昔同じ立場であったデイジーが東部人と同じ思考に染まっていく中、ギャツビーの純粋さが滑稽に見えて来る。フィッツジェラルドも当時の売れっ子として名を馳せたが、心にどこかでその風潮に疑問を持っていたのではないか。そしてその疑問を皆が持っていたからこそ当時売れたのであろう。
角川版は表紙がレンピッカでまさにピッタリである。
2022年11月8日
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アルケミスト―夢を旅した少年
- パウロ・コエーリョ
- 地湧社 / 1994年12月1日発売
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一人の若者が夢を追い求めて身近にある幸せに気づく、現代風スピリチュアル的青い鳥。
2022年10月14日
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エウロペアナ: 二〇世紀史概説 (エクス・リブリス)
- パトリク・オウジェドニーク
- 白水社 / 2014年8月21日発売
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第一次大戦からのヨーロッパ史を噂を取り混ぜて「コラージュ的に」語る作品。東欧的アヴァンギャルドのコラージュを歴史風の記述に当てはめて第一次大戦からのヨーロッパの不安定さが伝わる実験的作品だと思う。
2022年10月13日
カサブランカの前日譚としてのスペイン内戦を描いた日経新聞の連載小説の加筆修正版。元が新聞小説なだけあって文体は読みやすい。キザだけで形作られた登場人物たちが小気味良く話を進めてくれる。エンタメ小説とはいえ、歴史的事実に基づいており、このご時世、歴史は繰り返しがちであることや、歴史から学ぶことの重要性を感じさせる。
2022年10月9日
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近世ヨーロッパ軍事史―ルネサンスからナポレオンまで
- アレッサンドロ・バルベーロ
- 論創社 / 2014年2月1日発売
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戦争を政治、行政、経済、軍事技術発展の観点から国家の一公務として分析した書。中央集権化ともに行政の効率化による兵士の管理と大規模な軍隊の編成が可能となったこと、近代国民国家の成立とともに兵士のモチベーションが変化したこと名が紹介されている。
2022年10月2日
「この作品には『中国』も『秋』も出てこない」という全否定から入る帯コメント。架空の砂漠エグゾポタミーに様々な人が集まり、一応テーマとなる鉄道建設にが行われるのだが、記述自体がハチャメチャ/スラプスティックで何がなんだかわからない。初期の筒井康隆を彷彿とさせる突拍子の無さである。ただし、筒井がどこか狙っているんだろうな感が見え隠れするのに比べ、おフランス的な突き放したような厭世的哲学感が漂う。
2022年9月29日
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日露戦争秘話 西郷隆盛を救出せよ (竹書房文庫 よ 2-3)
- 横田順彌
- 竹書房 / 2022年6月15日発売
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快男児中村春吉の小説第三弾。前二作と異なり、SF的表現は少ない。シベリアの奥地の監獄に捕われた西郷隆盛を救出に行くのだが、全般的に間延びしている感があり、今一盛り上がりにかける。とはいえ、途中で仲間になるキャラクタは魅力たっぷりで可愛いのだが。特筆すべきは編者による巻末の解説。横田順也による当シリーズの初刊本の背景や中村春吉の足跡をたどる話が面白い。
2022年8月5日
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小説ムッソリーニ 世紀の落とし子 下
- アントニオ・スクラーティ
- 河出書房新社 / 2021年8月21日発売
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ファシズムの成立をムッソリーニを中心として描いた作品(「ファシズムの成立」ということ場自体が曖昧だが)。
第一次大戦後の1919-1924を舞台としている。小説としては登場人物と舞台/情景を短い節で描くことを繰り作りになっているので、瞬間瞬間の熱量を強く感じる。正直、本書を読んでファシズムの成立から政権奪取までをよんでも「ファシズムとは何か」がわかるのは難しい。ただし、少なくとも暴力性がその根本にあることだけは確かだ。また、今のイタリア議会に通じるのかもしれないが、ファシズム政権成立の過程は、民主主義の脆弱性を改めて考えさせられる。元祖ファシズムを学ぶにも、ムッソリーニについて学ぶにも、この時代のイタリアを通じて民主主義について考えるにも適した一冊。続刊があるとのことなので、是非翻訳、出版してほしい。
2022年8月3日
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みずほ、迷走の20年
- 河浪武史
- 日経BP 日本経済新聞出版 / 2022年6月11日発売
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日経記者によるみずほ20年史。日経はこれまでみずほのMinori完成、みずほの2021年のシステムトラブルに関して上梓してきた。その中からそもそものみずほ統合からを描いた一冊。特筆すべきは往々にして世の中には三行の怨嗟渦巻く人事/人間関係の観点から評する記事が多い中、情実部分は控えめのトーンで金融行政、金融市場との絡みを明確に記した点であろう。そして最後には失われた20年における金融の責任と今後の日本経済に望まれる展望を、理想像とはいえ挙げている点であろう。
2022年7月13日
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ゴーレム 100 (未来の文学)
- アルフレッド・ベスター
- 国書刊行会 / 2007年6月1日発売
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「虎よ!虎よ!」「分解された男」のアルフレッド・ベスターの作品。ワイドスクリーンバロックが時空を超えて飛び回る作品だと定義した場合、先の二作は空間的に飛び回っていたが、この作品は内面的宇宙を駆け巡っている。内面的宇宙を見つめる、またロールシャッハ的な絵やコラージュ、自動書記的独白などシュルレアリスム的表現にもあふれている。ストーリー、テーマ、暗喩、そして文体も含めた表現すべてを味わうべき作品。
2022年5月20日
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模造世界 (創元SF文庫)
- ダニエル・F.ガロイ
- 東京創元社 / -
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1964年の作品。現代(2022年)からしてみるとなんと60年近く前の作品。
マーケティングのために開発された社会環境シミュレータをガジェットとして話が進む。
このシミュレータ、架空の世界を作り、そこに住まう人々を定義/プログラミングして、
マーケティングシミュレーションに用いようというのだが、勘のいい方ならこの先の展開ももうお分かりであろう。
今でこそありふれた展開ではあるが(そもそもコンピュータゲーム自体がすでにシミュレータ化しているし)、
当時としては画期的な展開だったのではなかろうか。
なお、このような古典SFはレトロフューチャー感を楽しむのも一つ。
シミュレーションコンピュータがスイッチとリレーでできている、という記述はたまらない。
2022年5月11日
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ウィッチャー短篇集2 運命の剣 (ハヤカワ文庫FT)
- アンドレイ・サプコフスキ
- 早川書房 / 2022年3月16日発売
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ウィッチャー短編集の第二弾。前作の後、長編の前にあたる。
前作がウィッチャー世界でのさまざまなドラマにゲラルトが関わっていく話が多かったが、
今作はゲラルト本人に深くかかわる話が多い。
イェネファーとの痴話喧嘩から始まり、ウィッチャーとして生きることの重さを経て、長編へと話がつながっていく。
相も変わらず生きるだけで大変な世界において、真剣に生きることが生み出すユーモアがアイロニーを醸し出す。
2022年5月11日
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イスラームから見た「世界史」
- タミム・アンサーリー
- 紀伊國屋書店 / 2011年8月29日発売
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西洋的モノの見方を学んだアフガニスタン人が、ムスリムの立ち位置から世界史を記した本。
まず、上記の通り二通りの視点を有することで、半分西洋的な見方を学んでいる我々日本人にも違和感のない語り口で、イスラームの見ている世界史を解説してくれている。今まで見たことのない世界をわかりやすく解説してくれているのだ。イスラーム関連史など、高校の世界史の授業で単語を学ぶレベルか、ダイジェストでサラっと浚うのが関の山であるが、ここまで細かいものはほぼないであろう。近世以前の歴史において、如何にイスラームが発達していたか、またイスラームが宗教だけでなく、文化であり、文明であり、社会制度であった(そして世俗権力と宗教的権威の対立の根深さ)ことがよくわかる。そして何よりも近現代において、本書の真骨頂となる。なぜいつまでたってもイスラームを旗印にする武装勢力がいなくならないのか、オイルマネーを武器にする中東諸国の内実とは何か、フセイン死後のイラクがなぜあんなにも混乱を続けるのか、また、本書執筆以降の話ではあるが、アフガン政権はなぜタリバーンに負けたのか、なぜチュニジアの春は失敗したのか。イスラーム世界内の対立を知ることで紐解ける。そして、現代のイスラームを知る上で避けては通れない西洋との関係。ここで我々は如何に自分が西洋的視点でしか見てこなかったか、ということを思い知らされる。そして、さらにイスラームと西洋の間だけでなく、改めて世界には全く異なる視点が存在すると言うことを改めて思い知らされる。昨今の世界情勢において、様々な視点があることを学び中立的観点から分析し、他者を理解することの重要性を改めて学ばせてくれる名著といえよう(ただし私は、分析は中立的に、決断は恣意的に行うべきであると考えていることをここに記す)。
2022年4月25日