多様性はとても大切だ。だが、各々異なる価値観を持ちながら共生する社会を想像すると、すぐに壁にぶつかってしまう感覚があった。金子みすゞの如く「みんなちがって、みんないい。」は理想だが、本当に社会はそれで成り立つのだろうか?─という疑問だ。
そんな閉塞感を起点に本書を手に取った。著者はジョン・ロールズやリチャード・ローティを引きながら一つずつ丁寧に議論を進めている。人は自分が信じてやまない価値観や信仰を「正義」であると錯覚してしまいがちだが、それは自分自身が私的に良いと思う「善」(の構想)でしかなく、本来わたしたちが追求すべき「正義」は公共的な理念である。そして、わたしたちは未来に向けて不公正を解消していく責務を担っている。なぜならば、人と人とが共生せざるを得ないのがこの社会の現実だから。私的領域に偏重しすぎず、公的領域とのバランスを取ることが求められている。そこには、そもそも唯一の解決策や「ひとつの信仰」が当てはまる訳ではない。けれども、わたしたちは常に訂正可能性に開かれながら、特権や「力」の存在に自覚的になり、正しいことばをもたない他者の声を聴きとることによって、丘を登る歩みを止めてはいけない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
哲学
- 感想投稿日 : 2023年12月23日
- 読了日 : 2023年12月23日
- 本棚登録日 : 2023年11月12日
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