ひと粒の宇宙 (角川文庫)

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 project万巻さん  未設定  未設定

短い作品を集めた短編集です。
印象に残る作品がいくつかありました。

『ミケーネ いしいしんじ』

祖父の通夜での話。
参列者の中に猫のお面をかぶっている人がいた。
よくよく見てみると正真正銘の猫だった。

私は声をかけた。
猫は自分はミケーネという野良猫だと自己紹介した。
生前故人様に大変お世話になったのでお邪魔させてもらったのだという。
なんでもミケーネの一族のすみかは街中になるバッテイングセンターの近辺にあるのだが、
路上にチューインガムの吐き捨てが多いのだそうだ。
ガムの吐き捨ては猫にとって死活問題らしい。
前足についたガムに気づかずに顔を洗ってしまうと大変なことになる。
目をやられた子猫も多いのだという。
どうやら祖父はそのチューインガムを時折除去していたらしい。
ミケーネの一族はとても感謝しているということだ。
それで無礼を承知で人間様の葬儀に参列したのだという。

祖父は生前我々身内にとってよくわからない人だった。
無口であるうえに見た目も威厳があった。
家族といえども近づきがたい人間だった。

しかし身を寄せてくる小さきものには呆れるほど鷹揚だった。
祖父の肩や頭上にはいつも蝶や蜂がとまっていた。
草履の上ではカエルや鈴虫が休んでいた。
そんな場面を思い出した。

鍾馗のようないかめしい祖父の遺影に向かって
ミケーネは背を丸め一礼し、
ぺろりと舐めた掌に香をまぶしてはらはらと振った。
慣れていない動作なのだろうがきちんとした焼香だった。
おそらく事前に何度も練習してきたのだろう。
私はそうまでしてもらえる祖父を誇らしく思った。

『たすけて 高橋克彦』

この話はゴーストストーリーです。
亡くなった母親の幽霊が病院に出るということで
娘が確かめにいく。
すると生前、母親が何度も口にした
「なっちゃん、たすけて、早く来て」という声が聞こえる。
娘はその部屋の中に入る。
そして、その「たすけて」という言葉の真の意味を知るんですね。

これ以上書くとネタバレになるので書きませんが、
ゴーストストーリーというのは
怖がらせるばかりではなくて人を癒す力があります。
だから人は昔から幽霊の話を語り続けるのだと思います。
この短い話、多くの人の痛みを伴った共感を呼ぶのではないでしょうか。
2016/11/12 12:22

レビュー投稿日
2017年7月5日
本棚登録日
2017年7月5日
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