新装版 竜馬がゆく (6) (文春文庫)

4.10
  • (824)
  • (456)
  • (594)
  • (13)
  • (4)
本棚登録 : 4712
レビュー : 212
著者 :
teshigawaraさん  未設定  読み終わった 

幕府の偵吏は、寺田屋とこの藩邸を重点に見張っているのだ。使いを走らせて着物をとりにゆかせるなどはとてもできない。第一、寺田屋のお登勢は竜馬と慎蔵がこの藩邸でぶじだということも、確かめ得ずにいるのだろう。連絡は断絶しているといっていい。「そのままで当分辛抱しろよ」「でも」「またおれが長崎で儲けたら、一枚二枚ぐらいは買ってやらァ」「うん」またうなずいた。「坂本様」と絶句しておりょうは泣き出した。着物などのことより、連れて行ってやるという言葉が、泣くほどうれしかったのである。「泣くな」竜馬はあわてて立ち去ろうとし、二、三歩行ってから「おりょう、一生だぜ」「えっ」「ついて来いよ」気恥ずかしかったらしい。捨てぜりふのようにいって、そそくさと立ち去った。おりょうは両手に水をしたたらせて立ち上がり、ぼう然と立ちつくした。(一生。……)男女のあいだでこれほど重い言葉はないであろう。「坂本様、一生ですか?」おりょうは小さくつぶやいている。

竜馬は目の前の高千穂の頂を望みながら、矢立を出して山のスケッチをはじめた。「絵を描くのですか」とおりょうは意外な竜馬を発見したが、竜馬は亡友の武市半平太とはちがって絵ごころなどはない。「乙女姉に報せてやるのじゃ」そのための写生なのである。乙女にもこのおもしろさを裾分けしてやりたい気持ちでいっぱいであった。「乙女お姉様って、よほどあなたにとって大変な方なんですね」とおりょうは笠の下で眼を光らせ、複雑な表情をした。いかに姉弟をはいえ、ここまで濃かすぎるのはどうであろう。おりょうは竜馬のどの部分を独占してよいかわからない。

レビュー投稿日
2015年10月11日
読了日
2010年1月26日
本棚登録日
2015年10月11日
0
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『新装版 竜馬がゆく (6) (文春文庫)』のレビューをもっとみる

『新装版 竜馬がゆく (6) (文春文庫)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。
ツイートする